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今日も客は二、三人ほどしか来なかった。人通りが多いところに移店させた方が繁盛すると思うのに、なぜ祖母はここに店を立てたのだろう。自ら赤字になっていくようなものじゃないか。
そんな愚痴によく似た私には到底分からない疑問をぼんやり考えながら、棚に詰めていた煙草を1つずつ入荷した時に貰う大きな箱に戻してゆく。閉店時間の3分前から片し始めているのは、どうせ誰も来ないなんて経営上最も思ってはいけない諦め故からだった。
11、12、13、14。14番のマールボロを手に取り、今朝の出来事を思い出す。あの男性は仕事が立て込んでると言っていたが、果たしてどんな職業をしているのだろう。先程の疑問を奥底に潰し、肥大化した疑問。また来た時に聞いてみようと簡単に頭の隅に追いやって、マールボロを箱に入れた。
やがて全ての煙草を箱に入れ終わったので、店のシャッターを閉めようと棚に背を向ける。
「あぅっ、???!??」
刹那、今朝見た顔の男性が目に映った。
突然の出来事に酷く驚く。ずっと閉じていた口が開いて、思わず声が出た。
咄嗟に手を口元に当てて、その出てしまった声を再び口の中に押さえ込もうとした。とっくに彼の耳に入って消えていったというのに。
彼はサングラス越しに目を細めて笑う。再び胸ポケットからメモ帳とペンを取り出すと、笑いながら短い文を綴った。
"よ、今朝ぶりだな"
私も紙をまた下から取り出して、その返答を綴る。
"いらっしゃいませ。なにか購入しますか?"
すると男性は横に首を振る。
"話にきただけ"
大きく大きく、目を見開いた。初めて会話のお誘いをされたのに衝撃が隠せなかった。今までずっと避けられていたのに、なんで私が。不思議とペンを持つ手が震えた。
"私でいいんですか?"
"俺が誘ってんだからいいに決まってんだろ"
綴られた文字から視線を外し、彼を見た。目が合った瞬間、ふんわりと微笑んだ彼に思わず息を飲んだ。途端に、心臓を締め付ける過去のトラウマが、柔らかな視線を浴びてドロドロと溶けてゆく。
"満足させられるようなお話できるかどうか分かりませんが、それでもよろしいのであれば是非"
最終確認のような文を長々と綴った。目の前の彼はどこか安堵したような表情を浮かべて、ペンを走らせた。
"そんな固くなんな、気楽に話せばいいんだよ"
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もなか飴(プロフ) - こんなん泣いてしまうて…、 (2022年9月7日 14時) (レス) @page28 id: c284cc2b6c (このIDを非表示/違反報告)
まみこ(プロフ) - memoryさん» お気持ちだけもらっておきますね!!(^-^) (2022年7月18日 12時) (レス) id: 9d3f4398ec (このIDを非表示/違反報告)
まみこ(プロフ) - memoryさん» いえ、こちらこそ無理なお願いをしてしまいすみません!!それに、全く自分勝手ではないです!!こちらの方が自分勝手で…本当にすみません!!あと、残念なんですが私Twitterをやっていなくてですね💦でも書いてくださろうとしてくれたお気持ちは凄く嬉しいです!! (2022年7月18日 12時) (レス) id: 9d3f4398ec (このIDを非表示/違反報告)
memory(プロフ) - まみこさん» とても素敵なリクエストありがとうございます✨大変書きたい衝動に駆られていますが…あとがきを書いた後にお話を作るのがあまり好きではないので…自分勝手で申し訳ないです。もしTwitterをまみこさんがやっていましたら、そちらの方で投稿させて頂きますね! (2022年7月18日 7時) (レス) @page27 id: 11927a2f45 (このIDを非表示/違反報告)
memory(プロフ) - まみこさん» コメントありがとうございます💓涙を流していただけるほどの作品にすることが出来て良かったです…!最後までご愛読ありがとうございました😊✨ (2022年7月18日 7時) (レス) id: 11927a2f45 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:memory | 作成日時:2022年6月4日 22時