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産まれた時から、耳が聞こえなかった。




その事を初めて知ったのは、物心がつき始めた頃で。前まで普通と思ってみていた光景が急に異様に見えてきたのを覚えている。




特に記憶に焼き付いているのは、私より一回り大きい女の子や男の子、私より小さい女の子や男の子。私と同じくらいの背丈である女の子や男の子が毎日大勢で私を囲み、口をパクパク動かす姿。その行動の意図が読めず、ただ純粋に何をしているの?と毎回疑問を投げかけていた。





すると決まってみんな顔を歪めるのだ。顔を歪めて、そしてまた口をパクパク動かして。少しすれば顰めた眉を陽気に上にあげて、目で弧を描いて、パクパク動かしていた口を大きく開けて。なんでそんなに笑っているのだろうとますます疑問は深まるのだが、楽しそうな皆を見ているとどうでも良くなって、私も彼ら、彼女たちと一緒に笑顔を咲かせていた。





でもやはり、1度芽生えた疑問は簡単に頭から抜けること無くて。帰宅後、母にその事を伝えれば困ったように笑い、いつものように紙とペンを取り出して私に差し出した。前まではその光景に大して違和感を感じず、無心でペンを走らせていたのだが、妙にその時は違和感しか感じなかった。





なんで?と聞けば、母は驚きの色を見せたと同時に辛そうに顔を歪めた。私に差し出した紙とペンを使い、"貴方は耳が聞こえないの。だから言葉も上手に使えていないの。お母さんは分からないの"と跳ね払いがしっかりした小さな文字で綴った。残酷な事実を愛娘の瞳に映した母は、暫く罪悪から抜け出せなかったようで、何度も何度も口をパクパク動かしていた。そのうち父も帰ってきて、その日の夕飯は、オムライスだった。






そんな幼少期の思い出が、ふと今日入荷したタバコを棚に詰める作業を繰り返す私の脳内に走馬灯の如く駆け巡った。思い出の中の私は次の日、幼稚園の子供達が自分を馬鹿にしていたことに気付いたのだろうか。生憎その日のことしか覚えていないので、気になった。煙草の箱を手に握ったまま、埋もれてしまっている幼少期の追憶を思い起こそうと必死に記憶の中を弄った。





再び脳内に流れてきた私は、何故か求めていた幼少期の姿ではなく、セーラー服を見に纏った中学生の姿だった。




騒がしい教室の中、椅子に座り、ゴミへと姿を変えたピンク色の補聴器を手に乗せて見つめていた。時々指先でつついたり撫でたり、つまんだりして遊んでいた。夏の日のことだった

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もなか飴(プロフ) - こんなん泣いてしまうて…、 (2022年9月7日 14時) (レス) @page28 id: c284cc2b6c (このIDを非表示/違反報告)
まみこ(プロフ) - memoryさん» お気持ちだけもらっておきますね!!(^-^) (2022年7月18日 12時) (レス) id: 9d3f4398ec (このIDを非表示/違反報告)
まみこ(プロフ) - memoryさん» いえ、こちらこそ無理なお願いをしてしまいすみません!!それに、全く自分勝手ではないです!!こちらの方が自分勝手で…本当にすみません!!あと、残念なんですが私Twitterをやっていなくてですね💦でも書いてくださろうとしてくれたお気持ちは凄く嬉しいです!! (2022年7月18日 12時) (レス) id: 9d3f4398ec (このIDを非表示/違反報告)
memory(プロフ) - まみこさん» とても素敵なリクエストありがとうございます✨大変書きたい衝動に駆られていますが…あとがきを書いた後にお話を作るのがあまり好きではないので…自分勝手で申し訳ないです。もしTwitterをまみこさんがやっていましたら、そちらの方で投稿させて頂きますね! (2022年7月18日 7時) (レス) @page27 id: 11927a2f45 (このIDを非表示/違反報告)
memory(プロフ) - まみこさん» コメントありがとうございます💓涙を流していただけるほどの作品にすることが出来て良かったです…!最後までご愛読ありがとうございました😊✨ (2022年7月18日 7時) (レス) id: 11927a2f45 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:memory | 作成日時:2022年6月4日 22時

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