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このままでは死ぬ。イオンは自身の左の前腕を強い力を込めて根元からもぎ、食らい始める。ぶわりと青黒い血の煙幕が広がった。再生には時間がかかるかもしれないが、文句を言う暇はない。肉片が散らばるのにも構う事なく、嘴を動かす。数分としないうちにイオンの前腕は彼女の腹の中に収まった。まだ足りないが、再び餌を探すには十分なだけの体力が戻ったのを感じる。
ゆらゆらと泳いで目を凝らす。……と、ふと遠くに銀色が見えた。魚の鱗が光に反射した時の様子によく似ている。しかも一匹や二匹ではない。群れのようだ。それも、見た事がないくらいたくさんの。昔見た鰯の群れを思い出したが、イオンは奇妙に思う。どうも、様子がおかしいような気がする。全く違う種類の魚が群れているようだ。そしてそれがどうしてか、すぐに気が付いた。
魚達は群れているのではない。集団で追われているのだ。でも、何から？何から逃げている？どうも……何かよく分からないものに追われているらしい。何だろう、あれは……イオンは網という概念を知らなかった。知らなかったが、ともかくあれに捕まるのはまずいのではないかとは感じた。
距離を置こうと、魚の群れとは反対側へ泳ぐ。しかし前腕を食べて回復させたとはいえ、それでも全速力で泳ぐには体力が足りない。あっという間にイオンは魚達に……いや、魚達を追いかけていた網に絡め取られる。網を見たイオンは噛み千切って脱出する事を考えたが、それを実行する事はできなかった。幾匹もの魚によって形成された壁が彼女の行く手を阻む。必死に藻掻くが、何の意味も成さない。
しばらくそうしてわけもわからず藻掻いていると……急に、身体を持ち上げられる感覚に襲われる。そのまま勢い良く上昇し、次の瞬間イオンは水中にいなかった。
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