第10話・すれ違う思い ページ11
松陰寺side
「はぁっ､はぁっ､っ兼近､どこまで､走る､んだよ…はぁっ」
もう数十分ほど走っている｡
そろそろきついし､手を離して欲しい。
兼近は無言で走るスピードを落としてくれた｡
だけど､
「………」
返事はなかった｡
「兼近…？」
「………」
やっぱり､なんにも言わない｡
彼の創る沈黙は何かを待っている気がして仕方がなかった｡
本当はそんな事ないんだろうけど、俺の中のモヤモヤが原因なんだろう｡
言わなきゃいけない言葉が喉につっかえたままだったから｡
「……ごめんな…」
彼に聞こえるギリギリの声で言った｡
「みんなにも酷いことしちゃった…」
「……大丈夫」
「へ……でも、俺……あんなに最低なこと…」
「大丈夫､謝りにいきましょう､一緒に」
「………うん……」
一緒に､ってこんなにも心に響く言葉だったっけ？
「ねぇ､兼近､俺さ…キリンが好きなんだけど…」
「…ぇ？ど、どうしたんすか急に…」
「…でもあんまり見たことなくて…｡人混みとか…嫌いだし…」
なんでこんなに遠回しに言っちゃうんだろ…？
「もしかして…動物園とか行きたい…？」
「ぅ……」
正直になれない｡なんだか照れくさいし心がポカポカする。
「ハハッ､じゃあ俺が行きたいっす｡付き合ってくれます？」
彼はそんな俺の気持ちを察してくれた｡
「うん…」
「他は？何が好きなんすか？」
「甘いもの…」
「好きでしたよね､駅前のケーキ屋さん｡久しぶりに行きましょうか」
「野球とか…」
「一緒にやりましょう｡キャッチボールとか｡いつでも付き合うっす」
「本当？約束してくれる？」
「もちろん」
「…兼近は？兼近の好きなもの…知りたい」
「俺っすか？
……俺は､インジさんが好きです」
「っ……！」
その言葉を聞いた瞬間､俺の中の何かが切れた｡
あの時のように｡
気づくと瞼から熱いものが溢れ出していた｡
恋愛的な意味では無いのは分かっている｡
俺だって､そういう趣味は無い｡
でも､あれほど欲していたものが､もう与えられていたなんて｡
このまま戻ってしまいたい。
でも､そんな事は叶わないから｡
神様はなんて残酷なんだろう｡
そっと手を離し､立ち止まる｡
小さくなってゆく彼の背中を見つめていると悲しさが抑えきれなくなった。
これ以上俺の強さがこぼれ落ちないように両手で顔を覆う｡
「俺も好きって言えば良かったな…」
俺の心の呟きは誰の耳にも届かずに暮れゆく空に溶け込んだ｡
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梵天ぼんちゃん(プロフ) - おや！そうだったんですね。良かったです。ありがとう御座います。 (2021年8月26日 18時) (
レス) id: 77110d258d (このIDを非表示/違反報告)
アシA - ご心配おかけして申し訳ございません！これから少しずつ書かせていただきますね！ (2021年8月26日 18時) (レス) id: 26f7606c1b (このIDを非表示/違反報告)
梵天ぼんちゃん(プロフ) - 初めまして、梵天と言います。興奮してめちゃくちゃはまりました。続きが気になって仕方がないのですが、お元気にお過ごしされてるのですか？つづくのでしたら、楽しみに待ってまするね (2021年8月23日 1時) (レス) id: 77110d258d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：アシA | 作成日時：2021年5月24日 15時
