Abissale solitudine－海の底に消えた鍵－ Ⅳ (ページ8)

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標的124【回想:血染めのシャツ】ページ8

「でも、その他の暴行の事は？
　理絵奈ちゃん、神谷に殴られたとか言って泣いてた――」
「その事だけど」

　男子の言葉に被せる様にして、沢田が発言する。
　沢田の方に注目が集まった。

「さっき、本当に理絵奈ちゃんが「璃王君に殴られた」とか言ったんだよね？」
「あぁ……俺はそう聞いた！
　しかも、泣いてたしな！」
「私も、泣いてる理絵奈が教室に入ってきたのを見たわ！」

　沢田の問いかけに口々に肯定の言葉が飛び交う。
　そこで、ガラッ、と誰かが教室の扉を開けた。
　扉の先には、この学校の絶対的覇者――雲雀とDr.シャマルの姿があった。
　一瞬で凍る室内。本日の気温よりもグッと寒さを感じた気がした。

　そんな畏怖の視線すら気にせず、雲雀はつかつかと教壇へ向かって歩いていく。
　そして、バンッ！と黒板に何かを叩きつけた。

「リオンがあの女子に暴行を加えた……？」

　絶対零度の声が静まり返った教室にやけに響く。

「それなら僕は寧ろ、リオンを大いに褒める所だ。
　……だけど」

　それを見た一同は、「ひっ！」と声を上げる。
　それは――

「こんなに襟が真っ赤に染まるほどの血を吐いた人間が、暴行を加えられるような力があると？」
「……っ！」

　雲雀が黒板に叩きつけたのは、リオンのシャツ。それも、吐血した時に来ていた物だ。
　そのシャツは、襟から胸元に掛けて血で真っ赤に染まっている。
　吐血していた時に咳込んでいた事もあって、肩や袖、シャツの中心にまで血が飛んでいた。

　沢田、獄寺、山本は背けたくなる目を必死にシャツへと縫い付けた。
　あの時は、いきなりリオンが吐血して、雲雀が乱入して、直ぐに彼が保健室へリオンを運んだため、よく見ていなかったが――。

　こんなに血を吐いていたなんて。

　京子も涙目でシャツを見る。

「ツナ達にも言ったがな。
　今の彼奴は、普通なら2ヶ月は寝たきりの重傷患者だ。
　彼奴はドクターストップなんざ聞かねぇから、俺の知り合いの娘さんのところに預けた……が」

　ギロリ、とシャマルが生徒たちを睨む。
　彼らは、シャマルのいつもと違う雰囲気に圧倒され、何も言えなくなった。

「あのままお前らが暴行を続けていたら、リオンは死んでいたかもしれねぇ。
　彼奴は持病持ちなんだ。
　あの吐血も、暴行された事による薬の副作用だ。
　リオンの命に係わるなら、リオンの主治医としてはこれ以上、お前らの行動は看過できない」