Abissale solitudine－海の底に消えた鍵－ Ⅳ (ページ28)

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標的144【行違うやり取り】ページ28

「まぁ、彼の事は置いておいて。
　貴女にすぐに知らせなければならないことがあるので、馳せ参じました。
　今、お時間は宜しいか？」
「知らせないといけない事……ですか？
　とりあえず、そうだな……あの、じゃあ、こっちに」

　記憶の中の彼と変わらない優しい声に、リオンは思案した後校舎内へ二人を案内した。

―― ――

「うん、とりあえず、リオンがここを何だと認識しているのか僕に教えて？」
「う……悪かったって。
　まさか、恭がいるとは思わなかったんだよ」

　応接室に軍人二人を案内すると、そこにいる筈のない雲雀が憮然とした表情でリオンに問い詰める。
　リオンが二人を連れて応接室に行くと、そこにいたのは雲雀。
　今日はもういないかと思った雲雀が応接室にいた物だから驚くリオンだったが、雲雀もリオンがまさか引き返してくるとは思わなかったようで、その表情は驚きに満ちていたのだが。
　応接室に入ってきた軍人二人を見た雲雀の目つきは鋭いものに変わり、上記の雲雀とリオンのやり取りである。

　深く溜息を吐いた雲雀は「で、彼らは？」と問う。

「あぁ……この人は、美堂暁斗さん。
　僕の両親の知り合いだよ。
　こっちの人は、暁斗さんの上官だって」
「ふぅん……」

　暁斗と英暁をそれぞれ指しながら紹介すると、雲雀は興味なさげに頷いた。

「早速ですが、令嬢。
　本日持ってきた情報というのは、貴女のお父様に関することです」
「僕の……お父様に関する……？」

　暁斗が切り出した話に、リオンは首を傾げる。
　暁斗は神妙に頷いた。

「……暁斗さん。
　僕の両親は僕の呪幻術の暴走に巻き込まれて亡くなってしまいました。
　それが今更、どのような……」
「？令嬢は神谷(こうや)が亡くなっていると認識されていたのですか？」
「え、違うのですか？」

　感傷的な表情のリオンに、少年のような顔に不思議そうな表情を走らせる赤い目の軍人。
　声も何処か驚いているような色が滲んでいた。
　不思議そうに問われて、リオンは彼と同じような表情を彼に返す。
　何が面白いのか、この行違っているやり取りを暁斗の隣で聞いていた長身の軍人が「くはっ」と思わず吹き出す。
　空気の読めない反応を繰り出した無神経男の足を、暁斗は思いっきり踏んづけた。軍靴の踵で。
　軍靴自体、丈夫で硬質にできてはいるが、踏まれたダメージは全くないわけではなくて。
　地味な痛みがつま先に走って、英暁は声を押し殺す。