Abissale solitudine－海の底に消えた鍵－ Ⅳ (ページ21)

今日:16 hit、昨日:0 hit、合計:1,364 hit

標的137【年相応の強がり】ページ21

「その度に恭が出てみろよ、そりゃその時は収まるだろうけど、僕の為にはならないな。
　それに……僕は恭の妹じゃない」

　まっすぐ見つめられて、雲雀は一瞬言葉に詰まる。
　リオンのいう事は尤もだ。
　雲雀自身も、リオンを妹として見た瞬間は一度もない。
　しかし、だ。
　正論を言っているリオンではあるが、そもそも何故、雲雀がこうなったのか。
　その要因たるリオンには言われたくない言葉だった。

「僕は君を一度たりとも妹として見たことはないよ」

　暫しの沈黙の後、雲雀はゆっくり、はっきりと言った。
　雲雀は続ける。

「ただ、君が自分の力を使う事を良しとせず、剰え好き放題にさせてるからだろ。
　今まで気付いていながら見ない振りをしていた僕が言うのもおかしいけど、あんなことが今後起こりうるなら、僕は誰だろうが咬み殺すよ。
　……、もう二度と……」

　テーブルの上の一点を見つめ、雲雀は言葉を切る。
　最後の言葉はリオンには聞こえていなかった。
　首を傾げるリオンを前に、雲雀は言葉を失う。

　気を抜けば、いつだって脳裏に過るのは、あの日の光景で。
　血だまりの中でぐったりしている傷だらけのリオン。
　光を宿さない虚ろな目で見上げてきた深い海の目。
　弱々しく耳に残っている呼吸音――。

　そのすべてを未だに思い出すし、何なら夢に出て来ることもあるくらいだ。
　あの日のことは雲雀の中でトラウマとなっていた。
　気を抜けば、あの瞬間のすべての感覚を思い出してしまうほど――。

　静寂が部屋を満たす。
　雲雀はそれ以上は語ろうとしなかった。
　それは、リオンに情けない姿を見せぬため。
　何かを言おうものなら、口が滑りそうなのだ。
「怖かった」と。その一言さえ彼女に気取られたくないのは。
　落ち着き払って大人びた風貌をしていても、所詮は思春期真っ盛りの年頃の健全な男子。
　年相応に強がることもあるというものだ。

　他者の前では決して崩さぬ冷静さ。
　それは、リオンの前では余計に崩したくない物だった。
　要するに、“好きなこの前で格好つけたい思春期男子”なのだ、雲雀も。
　それを本人が意識しているかどうかはともかく。

　目の前で小首をかしげているリオン。
　年齢より少し幼げに見えるあどけない表情に保護欲が今まで以上に掻き立てられる。
　だからこそ、雲雀は自分の目の届く範囲にいる彼女は何があっても守りたいのだと思ったのだが――。