Abissale solitudine－海の底に消えた鍵－ Ⅳ (ページ15)

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標的131【雲雀からのプレゼント】ページ15

「――よし、っと。
　これで全部だな」

　今まで纏めた紙束をトントン、とテーブルに叩いて揃える。
　風紀委員の仕事が本来のそれよりも多いと感じるのは、雲雀が学校を牛耳っているからなのだろう。

「そうだ、リオン。
　そろそろ君にこれを渡そうと思っていたんだ」
「何？」

　雲雀に呼ばれて首を傾げれば、雲雀はリオンの座っている目の前に来て、膝を着いた。
　その光景にリオンは驚いて目を瞠る。
　雲雀が誰かの目の前で膝を着いているところなど、見たことがないからだ。
　そして、雲雀がリオンに差し出してきたものを見たリオンは、更に驚くのだった。

「――これは」
「風紀委員会副委員長の腕章。
　君にこれを渡したいんだ」

　リオンの手を取ると、雲雀はリオンの掌に腕章を乗せる。
　瞬きして5秒、リオンはじっとその腕章を見詰めた。
　一見すると、雲雀が学ランの腕に通してる腕章と変わらないデザインの腕章。
　しかし、その違いは布の赤い部分が深い青になっているところだ。
　リオンの髪の色と同じ、紫みを強く帯びた深い群青色。
　その上に金色の糸で「風紀」と刺繍されている。

「えっと……それはつまり、これで遠慮なく僕をパシれる、と」
「何でそっちに思考が行くの」

　数秒の間を置いた後、漸く口を開いたリオンの言葉に雲雀は呆れたような声を漏らす。
　何故、と言われても、今まで普通に雑用だとか手伝いだとかさせられていたリオンから言わせれば、これはリオンを風紀委員会に入れて気兼ねなくパシリにしよう、と思っても不思議ではない。

　しかし、雲雀がリオンに腕章を渡したのは、別の意図があった。

「そうじゃなくて……君が風紀委員に居れば、今後、君をどうこうしようという人間はいなくなるだろ。
　君のことだからどうせ、これからもあの草食動物たちには手を出さないつもりだろうし。
　だから、お守り代わりにでも持っていて欲しい」
「……」

　雲雀の顔から、腕章に目を移す。
　雲雀の腕章とは対照的な、副委員長の腕章。
　しかし、ここでリオンは一つ、あることを思い出す。

「……ん？
　僕を副委員長にしたら、草壁はどうなるんだ？」
「副委員長は二人いることになるね。
　まぁ、草壁もそっちの方が助かるでしょ。
　自分の仕事を振り分けられる人間がいるってことだから」
「なるほど」

　雲雀の回答に少々引っ掛かりは覚えるが、リオンはとりあえず納得することにした。