心の中 ページ9
夢の端の破れ目のその向こうには、どこまでも広がる草原が広がっていた。
小さな川の傍には小さな花がいくつも咲いており、遠くに家が建っているのが見える。
鼓膜に届いてくるのは風によって揺れる草花の揺れる音と川のせせらぎだけ。
優しく涼しい風が袖を膨らます。
「これが、彼女の心の中」
呆然とつぶやく。
目の前に広がる美しい光景に、少女は圧倒された。
「……何という美しさ……どこまでも広い……そして、居心地がいい」
少女は緑の芝生に寝そべり、大きく息を吸う。柔らかく心が安らぐような花の香りが鼻腔を優しく撫でる。
少女はその美しさのあまり、一筋の涙をこぼす。
*
「――手こずってるな」
先頭車両の屋根に立つ魘夢が物憂げに呟く。
「どうしたのかなぁ? まだ誰の核も破壊できてないじゃないか」
あれだけ念を押して送り出したというのに――。
魘夢は霧に包まれた後方車両を見やりながら、そっと嘆息した。
「……まぁ、時間稼ぎになってるからいいけど」
*
鷹が羽を羽ばたかせて飛んでいく。
「ハァハァ」
未だ夢から覚めることの出来ない春寧は、緑で溢れる森の中を駆けていた。呼吸が荒い。肺が潰れそうだ。
春寧は足を止めると、周囲を見回した。
いない。気配はするのに。でも、なんなんだこれは。
どこからでも微かに鬼の気配がする。
場所を特定できない。
「はやくしないと……! 他のみんなも眠ってるなら、相当まずいぞ!」
突然行く手を阻むように轟音を立てて風が吹く。
どうしたら……。
焼け付くような焦燥に駆られていた、その時――。
――おい。
背後に気配を感じた。
――刀を持て。斬るべきものは、もうある。
己の声が告げる。
「……!」
春寧が振り向いた瞬間、『自分』の気配は消え去った。
胸の中で言葉を反芻する。
斬るべきものは……もうある。
春寧の左手が薙刀袋に伸びる。手に馴染んだ柄の固い感触が伝わってきた。
目覚めるために……。わかったと思う。
でも、もし失敗したら? 夢の中の死も現実に繋がるのなら……取り返しが……。
春寧の目に躊躇いが浮かぶ。それを振り払うように、刀の柄をぎゅっと握る。
迷うな! やるんだ!
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作者名:映画好き人間 | 作成日時:2022年12月25日 0時