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それでも尚、案ずるように訊ねてくる母に、うんと答えようとすると、

「あっ! お父さん!」
雄一が冬華の畳んでいたシーツの一枚を掴んで「ばふーん」と春寧の頭にかぶせてきた。

「うわっ!」
「ダメですよお父さん!」
「わはははは」
「やめてくださいよぉ!」

怒る冬華の声も心做しか笑っている。

悪ふざけした父親にもみくちゃにされながら、春寧がふと母親の方を見ると、春香も口元を綻ばせていた。




それに、なぜか胸が締め付けらるような思いがした。




ただの日常に過ぎないはずの全てが、温かくて悲しくて、切なくて幸せで仕方なかった。








独り言のようにそっと呟く。






「……悪い夢でも、見てたみたい」










「ねんねんころり、こんころり」
列車の屋根で鬼の男が歌う。

不気味な子守唄を。

赤子を眠らせる母親の如き声で。

「息も忘れてこんころり。鬼がこようとこんころり。腹の中でもこんころり」

夜風に髪を靡かせながら魘夢が嗤う。

「楽しそうだね。幸せな夢を見始めたのかな」





落ちていく。






朝早く、春寧と冬華はそれぞれ父親と母親の鞄をもって玄関まで走る。

母親はアートショップを経営しており、父親は飛行機の設計士をしている。

両親に頑張れと言わんばかりの笑顔をむける。






落ちていく。







家の前で、春寧と冬華は春香と雄一を見送る。

ふざけて飛びついた冬華を抱きとめ、雄一が声に出して笑うと、みんなも声を上げて笑った。






夢の中へ――






「深い眠りだ。もう、目覚めることは出来ないよ」
鬼は両目を細めると、残薄な笑みを浮かべた。





春寧は部屋で部屋で絵を描いていた。窓から見える湿地の風景をキャンバスに描く。

「出来た」
春寧が椅子の背もたれに身を預け、ふと布がかけられたキャンバスが目に留まる。春寧は立ち上がり布を払い除けた。

それは金髪の男性が描かれていた。誰だっけと考えながら、下の方に書いてある文を読んだ。


そこには、愛しい人と書いてあった。

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作者名:映画好き人間 x他1人 | 作成日時:2022年12月25日 0時

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