約束 ページ14
「俺の生家煉獄家に行ってみるといい。歴代の炎柱が残した書記があるはずだ。父はよくそれを読んでいたが……俺は読まなかったから内容が分からない。君が言っていたヒノカミ神楽について何か……書かれているかもしれない……」
「煉獄さん……もう大丈夫ですから」
炭治郎が泣きながら言った。
「呼吸で止血してください…傷口を塞ぐ方法はないですか？」
「ない」
杏寿郎は笑顔で応えた。
「俺は、もうすぐに死ぬ」
「っ！」
炭治郎の顔が悲しみに歪む。春寧も体を震わす。
「喋れるうちに喋ってしまうから聞いてくれ。弟の千寿郎には自分の心のまま正しいと思う道を進むようにと伝えてくれ。父には体を大切にして欲しいと」
杏寿郎は一呼吸置いた。
いつの間にか朝になっているようだ。
差し込む朝日で鳩尾を貫いている猗窩座の腕が崩れ始めた。鬼の肉が塵となり消えていく。それによって出血が加速した。
どくどくと傷口が脈打っている。
これは、呼吸を使っても止めることはできない。
「それから、桃山」
突然名前を呼ばれ、俯いてひたすら涙を拭いていた春寧はハッと顔を上げた。
そしてすぐに杏寿郎の隣に座る。
「……何？」
平静を装っていつものようににっこり笑う。
「君は俺よりも長く生きて、幸せになって欲しい。それが俺からの願いだ」
あんたがいないと幸せになれないんだけどね。と心の中で突っ込んだ。
「……分かった。約束する」
そう言うと、杏寿郎はほっとしたように笑う。
「けどその代わり、わたしからもひとつお願いがある」
(夢主)は胸の前で指を一本立てた。
「また生まれ変わったらさ、一緒に今度こそ幸せに過ごそうよ」
涙が頬を伝う。その涙は残酷なまでに温かい。
まだだ、我慢しろ。
今泣いたら杏ちゃんは心配する。安心してあっちに行けるように。
笑え。今だけは。
(夢主)は精一杯に笑い。
「来世では、幸せになれ」
そう言った。
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作者名：映画好き人間 | 作成日時：2022年12月25日 0時
