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「良いお店……さすがはダイナマイトです」
「爆豪」
個室タイプのボックス席とはいえ人気である彼をヒーロー名で呼ぶのはまずかっただろうか。失礼しました、と告げるとまだ何か言いたげな舌打ちが返ってきた。伺うように笑う私の口元とは真逆の方向に曲がっている唇が開かれるのに僅かな緊張を覚える。
「てめェはまだ『接待中』なんか」
「これから仕事の話をするのなら」
大方彼の言いたいことを理解した私は試すようにそう言った。やはり彼は仕事中の対応をされるのが気に食わないのだろう。理由は確信できないが、例えば取引相手が知人だったとして、自分が畏まった態度を取られたら落ち着かないという気持ちは理解できる。爆豪君は鼻を鳴らして背もたれに寄りかかり口を開いた。
「こっから仕事の話はすんな。気色悪い態度もやめろ。その代わりここは俺が出すから財布出したら殺す」
「うん、あれ？ 最後だけよくわからないんだけれど」
「プライベートになると馬鹿になるンか？」
プライベートとはっきり言われたように、この飲みは仕事抜きのものにしたいのだろう。私としては別にそれは問題なく、むしろ彼の話を聞けるのだから嬉しい誤算だった。その代わり、という言葉が納得するに至らないのである。私の方が彼より先輩なのに、一般的にはこういう場は年長者が奢ったり多く出したりするものだろう。そんな疑問をそのまま顔に映して、面倒臭そうに溜め息を吐く爆豪君を見つめた。
「先輩が出したいな」
「あ？」
「私も滅多に先輩面できないから後輩に奢る経験してみたいなー」
「うるせェ」
「じゃあさ、次は爆豪君が出してよ」
次なんてあるかわからないけれど、それならば結果は変わらないのだから爆豪君を言いくるめることもできるだろう。形の良い釣り目が一瞬だけ考えるように宙を彷徨ったのを、私は見逃さなかった。先輩としての矜持を守ることができたのを確信し、自然と口角は上がっていた。
「……それ反故にしたらタダじゃおかねェからな」
「じゃあ注文しようか。お酒がいっぱいあるんだね、ここ。爆豪君お酒は強い方？」
いつも通りの肯定に安心してメニュー表に輝く黄金を2杯と、写真の横に一押しと記された焼き鳥を数種類注文した。程なくしてテーブルに置かれたそれらに五感を刺激されて喉が鳴る。グラスを持って乾杯と言えば、意外なことに同じように爆豪君が返してくれた事実に、きっと良い飲み会になるという予感が胸を躍らせた。
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廿楽(プロフ) - むさん» コメントありがとうございます。お褒めいただけて嬉しいです！応援も大変励みになっております。頑張ります！ (2021年10月18日 1時) (
レス) @page21 id: 3ef6add51e (このIDを非表示/違反報告)
む(プロフ) - コメント失礼します、とても面白くて続きが待ち遠しいです！文章がとても好きです。これからも頑張ってください、応援しています！ (2021年10月17日 20時) (レス) @page4 id: e0a285cdcb (このIDを非表示/違反報告)
廿楽(プロフ) - いくまさん» コメントありがとうございます。大変励みになります！文章の表現諸々を好みと言っていただけて嬉しい限りです。遅筆ではございますができる限り更新したいと思いますので、これからもどうかよろしくお願い致します。 (2021年9月21日 18時) (レス) id: d79b86d8d5 (このIDを非表示/違反報告)
いくま(プロフ) - コメント失礼します。作者様の作品、全て読ませて頂いております。文章の書き方、構成、表現が全て私の好みに当てはまっており毎回の更新とても楽しみにしています。これからも更新諸々頑張って下さい。応援しています。 (2021年9月21日 11時) (レス) id: de9f3ec973 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：廿楽
| 作成日時：2021年8月26日 4時
