24 ページ25
「失礼致します。お客様より伝言を預かって参りました」
聞けば、重要な話も顔合わせも済んだので多忙な上司はあのまま先に店を出たとのこと。重ねて、後は察視君にお任せするよ、と。ワンテンポ遅れて業務用スマートフォンにもその旨は届いていた。つまりあの上司はこの後のことを全て私に丸投げしたのである。『適当』がどれ程難しい塩梅かわからない人物ではないだろうに、どうしてこんなに無責任なことをするのだろう、と憤りすら覚える。そもそも取引相手を放って別の仕事に向かうことが許されるのだろうか。私がいるとはいえ、それは信頼ではなく一種の傲慢ではないか。
こめかみの痙攣を必死に抑えながら依然としてどこか不機嫌そうなダイナマイト――もとい爆豪君に事情を伝えると、特に抑揚のない声で「そうかよ」と口にした。多忙なのは私達だけではなくダイナマイトも当然である。そんな中空けてもらったこの日にこんなことになってしまったのはこちらの落ち度であり、どう埋め合わせをすべきか悩ませながら話していると、彼は静かに言ったのだ。
「店変えんぞ」
「え」
「どうせ1日これで空けてんだろ」
「はい、ですが……」
「どうせてめェが埋め合わせだなんだか考えてんのはわかってンだよ。なら付き合え」
「かしこまりました」
反射的に述べた肯定の後に見えたのは今日一番の上機嫌さを示す表情だった。埋め合わせとしての後日対応が楽になる点も、上司に報告できるという点も考えたら理想的な提案だった。自分の理知的な部分が瞬時にそう判断したからこそ、即時に出た承諾である。それだけでいいはずなのに、私は何を不安に思っているのだろう。否、何に緊張しているのだろう？
「予約した。店向かうぞ」
「も、申し訳ありません。こちらがすべきことなのに」
「てめェんとこの息がかかった店なんざ御免だから黙ってついて来いや」
「……ありがとうございます」
彼はどこまで聡明なのだろう。次に行く店は、本来ならばついさっき上司から届いた『後は私に任せる』というメッセージの最後に送られてきた店の予定だった。上司もこの展開を読んでいたのか、下衆な思惑があってか知らないが。私以外の誰かが接待の内容を告げ口する為の計らいである。そのことをきっと彼は理解していて、それが年下ながら恐ろしいと思った。
「タクシーの手配は私が。これは私用のスマートフォンなので弊社のことはお気になさらず」
爆豪君は鼻で笑って、私達はタクシーを待った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 125人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ヒロアカ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
廿楽(プロフ) - むさん» コメントありがとうございます。お褒めいただけて嬉しいです！応援も大変励みになっております。頑張ります！ (2021年10月18日 1時) (
レス) @page21 id: 3ef6add51e (このIDを非表示/違反報告)
む(プロフ) - コメント失礼します、とても面白くて続きが待ち遠しいです！文章がとても好きです。これからも頑張ってください、応援しています！ (2021年10月17日 20時) (レス) @page4 id: e0a285cdcb (このIDを非表示/違反報告)
廿楽(プロフ) - いくまさん» コメントありがとうございます。大変励みになります！文章の表現諸々を好みと言っていただけて嬉しい限りです。遅筆ではございますができる限り更新したいと思いますので、これからもどうかよろしくお願い致します。 (2021年9月21日 18時) (レス) id: d79b86d8d5 (このIDを非表示/違反報告)
いくま(プロフ) - コメント失礼します。作者様の作品、全て読ませて頂いております。文章の書き方、構成、表現が全て私の好みに当てはまっており毎回の更新とても楽しみにしています。これからも更新諸々頑張って下さい。応援しています。 (2021年9月21日 11時) (レス) id: de9f3ec973 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：廿楽
| 作成日時：2021年8月26日 4時
