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少しだけ、汚い話である。
「いざとなったら先方も男性だから、な」
「……ヒーローですから、私などではとてもとても」
「聞けば後輩だそうじゃないか。頼んだよ、失敗はできない」
「善処致しますとも、お任せください」
良く言えば時間の重みを感じる、悪く言えば古臭い不純物を凝り固めた価値観を持つこの人物こそが、今回のプロジェクトの責任者である上司だった。気さくであったり面倒見も良かったりと悪いところばかりではないのが、このタイプの厄介なところだ。
彼が席を外す直前の会話は察視にとっては不快極まりないものであった。彼は度々彼女にこのようなことを言っては「まずいことを言った」と反省など微塵も見られない笑顔で去っていくのだ。あのレストランでの顔合わせの時も何か同じようなことを言われて、笑顔も言葉も貼り付けたように対応したことを思い出した。知り合いと言えど仕事相手の前では不満を漏らすことも許されない。
不快感を閉じ込めた顔で爆豪へ向き直れば、彼は少しだけ不満を携えて一言呟いた。ここでレストランの時のように楽に話しては、どこで見ているかわからない上司に何かややこしいことを言われかねない。仕事だということを強調して、不愉快を愛想で煮詰めた笑みを向けると、爆豪の眉尻が僅かに持ち上がった。
「色紙か何か持ってっか」
「小さいものでしたらこちらに」
疑問符が浮かびきる前に先程の上司とダイナマイトとの会話を思い出した彼女は、革張りのビジネスバッグから、素早く新品の顔よりふた回り程小さな色紙を太い油性ペンと共に、すっかり料理の下げられたテーブルへ滑らせた。無言でそれを受け取り手慣れた様子でサインを書く様子を注視していると、不機嫌そうにバーミリオンが揺れた。
「馬鹿みてえに見てんじゃねーよ」
「……失礼致しました。こちら、お渡ししておきます。ありがとうございます」
ぶっきらぼうに差し出された色紙を察視が確認すると、そこには思い切りの良い自信に満ちているサインがくっきりとあった。きっとセンスが良いのだろう、このままプリントしてグッズにしても売れそうなくらい様になっている。そんなことを考えながら色紙の入っていた袋にそれをしまい、丁寧にバッグに収めた。
「素敵なサインですね。奥様もお喜びになることでしょう」
「そりゃよかったな」
興味の無さそうな爆豪の声に察視はいくらか焦りを覚えていた。想定した時間に上司が戻って来ないのである。
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廿楽(プロフ) - むさん» コメントありがとうございます。お褒めいただけて嬉しいです！応援も大変励みになっております。頑張ります！ (2021年10月18日 1時) (
レス) @page21 id: 3ef6add51e (このIDを非表示/違反報告)
む(プロフ) - コメント失礼します、とても面白くて続きが待ち遠しいです！文章がとても好きです。これからも頑張ってください、応援しています！ (2021年10月17日 20時) (レス) @page4 id: e0a285cdcb (このIDを非表示/違反報告)
廿楽(プロフ) - いくまさん» コメントありがとうございます。大変励みになります！文章の表現諸々を好みと言っていただけて嬉しい限りです。遅筆ではございますができる限り更新したいと思いますので、これからもどうかよろしくお願い致します。 (2021年9月21日 18時) (レス) id: d79b86d8d5 (このIDを非表示/違反報告)
いくま(プロフ) - コメント失礼します。作者様の作品、全て読ませて頂いております。文章の書き方、構成、表現が全て私の好みに当てはまっており毎回の更新とても楽しみにしています。これからも更新諸々頑張って下さい。応援しています。 (2021年9月21日 11時) (レス) id: de9f3ec973 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：廿楽
| 作成日時：2021年8月26日 4時
