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「大変お待たせ致しました。察視です」
なるべく丁寧に、落ち着いた電話用の声色で常套句を口にする。通話相手は上機嫌そうにこちらの様子――正確には、義眼である右目の様子を尋ねてきた。なぜこのタイミングで、という不満を滲ませることのないように答えていく。なぜ私が義眼を入れることになったのか、退屈な電話の時間にいつもぼんやりと思い出すのである。
小学生の頃に私の個性に目を付けた敵に誘拐された。どこから私の個性の情報が漏れたのかすらわからずじまいだったが、殺されるのが嫌だった私は強要されるがままに右目で未来を視たのだ。当然、使い慣れていない個性で大層なことが無傷で可能なはずもなく、私の右側の視界は焼けるような痛みと共に失われた。視えたのは牢で項垂れる目の前の敵の姿だけだった。そこからは痛みのせいか詳細な記憶は無いが、そう時間は掛からずに警察に保護されて治療を受けた。その際に凶悪犯罪の被害者を支援するという名目で、私に義眼を提供したのが今の電話相手である。
それからは持ちつ持たれつの関係で、私は精密な義眼と完璧なサポートを無償で。相手は義眼の臨床試験と私の経営科としての見解を、といったところだ。あまり深く考えてはいないが、きっと私は将来的にこの会社と係わる仕事に就くのだろう。何せその道では名の知れた大企業である。定期的に連絡を取っている時点で、私が事業の相談を受けている時点で緩やかに私の進路は決まっているのだ。
高校生に事業の相談をするものか、と疑問には思ったが、時折感じる視線は私を監視するためのものであることは気付いている。別に見られて困るような生活はしておらず、私や家族もこの企業への恩義は感じている。ギブアンドテイクというわけである。
「それでは失礼致します」
ひと通りの報告を終えて、相手方が電話を切るの待ってから通話終了アイコンをタップする。自然と力の入った肩を回し、響く骨の音を聞いて力の抜けた声が漏れる。度々周りから自由人だと揶揄される私だが、社会的地位が遥かに上である人物との通話では毎回無意識に緊張しているので、この動作はもはやルーティンだった。
「てめェ試合観てねえじゃねぇか」
「わぁ」
なんということだろう。電話は思いの外長かったらしく、残すはこのインターバル後の決勝のみとなっていた。道理で肩もいつもより鳴いていたはずである。いやそんなことより、彼は私と話している場合なのだろうか？
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廿楽(プロフ) - むさん» コメントありがとうございます。お褒めいただけて嬉しいです！応援も大変励みになっております。頑張ります！ (2021年10月18日 1時) (
レス) @page21 id: 3ef6add51e (このIDを非表示/違反報告)
む(プロフ) - コメント失礼します、とても面白くて続きが待ち遠しいです！文章がとても好きです。これからも頑張ってください、応援しています！ (2021年10月17日 20時) (レス) @page4 id: e0a285cdcb (このIDを非表示/違反報告)
廿楽(プロフ) - いくまさん» コメントありがとうございます。大変励みになります！文章の表現諸々を好みと言っていただけて嬉しい限りです。遅筆ではございますができる限り更新したいと思いますので、これからもどうかよろしくお願い致します。 (2021年9月21日 18時) (レス) id: d79b86d8d5 (このIDを非表示/違反報告)
いくま(プロフ) - コメント失礼します。作者様の作品、全て読ませて頂いております。文章の書き方、構成、表現が全て私の好みに当てはまっており毎回の更新とても楽しみにしています。これからも更新諸々頑張って下さい。応援しています。 (2021年9月21日 11時) (レス) id: de9f3ec973 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：廿楽
| 作成日時：2021年8月26日 4時
