恋の教え【その11】 ページ11
「もう心配ないくらい元気になりましたね。
予定通り、最終検査をして明後日には退院です。」
俺の検診をした医者がそう言った。
あんなに嫌がった入院もあと2日で終わるのに
終わって欲しくない気持ちがある。
なぜって、たぶんAのせいだ。
「よかったね、空。あ、退院したらハンバーグ作ってあげようか？カレーの方がいい？」
「どっちでも」
「……空？どうしたのよ。退院嫌なの？」
「…別に嫌じゃない…早く、帰りたいよ」
俺の言葉から何を読み取ったのか知らないけれど
お母さんは俺のおでこをツンっとつつきながら
ニヤニヤ笑っていた。
『明後日って、いつ？』
「明日の次だよ」
『あと2日？』
「そう」
いつの間にかAが俺の病室に来るのではなく
俺がAの病室に行くようになった。
『寂しい』
「別にここにはたくさん人がいるだろ」
どうして素直に言えなかったんだろ。
俺も寂しいよって。
『1人が寂しいわけじゃないもん。
空がいないのが寂しいの』
「…あっそ」
『でも、良くなってよかったね』
「うん」
『……あ！そうだ！お別れ会しよう』
「お別れ会？」
『うん！』
ニコニコと笑ったAはスケッチブックを取り出して何かを書き出した。
覗き込もうとすればダメだと
おでこを押し返される。
しばらく病室はAと俺の呼吸と
紙とクレヨンの擦れる音だけ。
『できた！』
Aが描いたものを俺に渡してきた。
【しょうたいじょう
空のお別れパーティー
〇月〇日時 夜の1時
Aのびょうしつ】
「1時って……こんな夜中に病室の外なんか出れないよ」
『こっそり出るの！布団の中にものをいっぱい入れてふっくらさせておいてね！』
「なんでこんな夜なんだよ」
『この時間にしか見れないの』
企画したAはずっとニヤニヤしていて
対する俺は本当にこんなことしていいのだろうか
って不安ばかり感じていた。
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作成日時：2018年12月27日 23時
