心は奪われたまま【灰谷蘭】

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「なんで、ここにいるの」

からからの口からやっと出た声は、少し掠れていた。なんで私の前に現れるの。

「捨てする女見繕いに来ただけ♡」

「は、」

したらお前いんだもーん、といつも通りの笑顔で続ける蘭に、悲しみとか、怒りとか、そういう感情は生まれなかった。

ただ、失望した。

「どーしてもって言うならお前でもいいけど？」

ははは、と声を立てて笑う。

「いるんだよなー、ちょっと優しくしただけで自分のことすきなのかもーって勘違いして俺の事縛ろうとしてくるやつ。そーいうバカ女ばっか。ま、お前もだけどな？A♡」

「･･････ッ」

「でも婚約まで持ち込まれたのははじめて♡ちょっと焦ったワ」

言い終わる前に、またしても身体が勝手に動いていた。

パシャッ。

グラスに並々と注がれていた酒を、蘭にぶちまけた。

「ぶっっ」

隣で三途さん？が吹き出す。

「おいおい味噌汁の次ははなに？カクテル？」

蘭は怒りが混じった声でそう言った。頭から酒をかけられて(2度目)ぶち切れないなんてなかなか冷静だな、なんて思って。

「ジントニックだよ！！！！！！」

ヤケクソ気味にそう叫んでガタッ、と椅子を引き、私はバーを出ていった。

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