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「では、お願いできますか？」
私はそう云って、ポケットの中から小さなビニール製の袋に入れたハンカチを取り出した。そして両手で男性に差し出すと、彼は片手で少し粗雑にそのハンカチを受け取る。私は、彼の手からどういう経緯でチャンミンさんに返されるのか少し不安だったが、もう手渡してしまったので仕方ないと諦めた。
「じゃ、渡しておきますんで」
「はい。お願い致します……」
その一言だけ残して、男性は私に背を向けて自分の席へと戻って行ってしまった。私は少し消え入るような声で返事を返すと、小さなため息をついてその部屋を後にした。
そして、少し視線を落とし気味にエレベーターホールへと向かって歩いていると、前方からコツコツと踵が床を踏みしめる音が聞こえてくる。このフロアに用のある人が来たのか、と、さして気にも留めず私は邪魔にならないよう壁際に寄った。そして、その人の脇をすり抜けようとした瞬間……
「A？」
「え……？」
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作者名：悠貴 綾
| 作成日時：2017年2月22日 21時
