二十一 ページ21
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大野家、家人用の玄関………
「先生、すいやせん。」
深々と、頭を下げる伊佐治を…
智之介は、制した。
「頭を、上げて下さい。それより…どうされたんです？」
「へい。例の辻斬りが、また出やしたんで。それで…旦那が、先生をお呼びして来いとおっしゃったんでごさいやす。」
「和馬さんが…」
「へい。今度は…三人も、一度にやられちまいやしてね。」
「三人…ですか……」
“三人を、一度に…とは………”
「今度の仏さんは、そりゃあもう…ひでぇ有様で。」
「えっ…」
“一刀両断に、切り捨てていたはずの辻斬りが…何故(なにゆえ)、そのような……”
「先生…おいで頂けますでしょうか？」
「承知致しました。少し、待ってもらえますか？」
「へい！」
頭を下げる伊佐治を見た後、振り向いた智之介は…
縁側の板の間で、腰の物を抱えている潤弥と目が合った。
「御入り用かと…」
「あぁ。」
大小を受け取り、腰に挿した後…
智之介は、潤弥を見つめた。
「後を、頼む。」
「承知致しました。」
潤弥に見送られて…
智之介は、伊佐治と共に玄関を出た………
辻斬りの現場は、正に…
目を覆いたくなる程の、惨状であった。
辺り一面の、血の海に…
さすがの智之介も、一瞬立ち尽くしてしまった。
「先生！」
和馬が、智之介に手を挙げた。
智之介も、一度だけ頷いて見せた………
「わざわざすまねぇな、智さん。」
「いえ。」
「ひでぇもんだぜ…」
和馬の眉間の皺が、より深くなった。
「下手人の手掛かりは、あったのですか？」
「いや。全くもって、分からねぇ。北辰一刀流の使い手だってことくれぇで、新しいことは何も…」
「そうですか…」
“どうやら、もう…戻れない道を、進まれているようだ………”
智之介は、赤く染まった地面を…
しばらくの間、見つめていた………
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作者名：愁(ｼｭｳ)
作成日時：2016年6月8日 19時
