二十 ページ20
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「やはり…お見事ですね。」
雅吉の、鮮やかな手捌きに…
大きな眼(まなこ)を、益々大きく見開いて…
神妙な面持ちで、見つめる潤弥に…
雅吉は…
その顔を、仄赤く染めながら…
鯛に、包丁を入れていた。
その時………
「潤弥。茶を………」
湯呑み茶碗を手にした、智之介は…
雅吉の姿を認め、笑顔を見せた。
「先生。お邪魔しております。」
「雅吉さん。どうしたのですか？」
「善さんが、いい鯛を持って来てくれたものですから。是非、先生と潤弥さんに…と、思いまして。」
「それは、ありがたい！」
智之介は、土間へと降り立ち…
雅吉の手元へ、顔を近付けた。
「これは…誠に、見事な鯛ですね！」
「善さんが…これなら先生もお喜び下さるだろうと、申しておりました。」
「はい。誠に、素晴らしい！」
「先生は…魚の事となると、目の色が変わられますね。」
潤弥が、冷やかすように微笑(わら)った。
「えぇ。(笑)」
「雅吉さんまで、そのような…」
少し、口を尖らせた智之介を見て…
潤弥と雅吉は…益々、微笑(わら)った。
その時………
「先生！ 大野先生！！」
家人用の玄関の方から、男の声がした。
「先生。あの声は…」
潤弥が、智之介を見た。
「伊佐治さん…のようだな。」
智之介の表情が、変わった。
伊佐治の声色で、大事があったことを察していたからである。
「先生。正二郎様の事は、お任せ下さいませ。」
潤弥が、落ち着いた声で言った。
「分かった。」
潤弥に一つ頷いた智之介は、雅吉を見た。
「雅吉さん、すみません。」
包丁を置いていた雅吉は、あの日だまりのような笑顔で、智之介を見つめていた。
「先生。お気をつけて、いってらっしゃいませ。」
一礼する潤弥と雅吉に見送られ、智之介は玄関へ向かった………
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作者名：愁(ｼｭｳ)
作成日時：2016年6月8日 19時
