十九 ページ19
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「お帰りなさいませ。」
玄関先の、板間で…
正座姿の潤弥が、美しく一礼し…
智之介と正二郎を、迎えた。
「潤弥。こちらが、鹿沼正二郎殿だ。」
「初めて、お目にかかります。潤弥と申します。」
「鹿沼正二郎と、申します。本日より、お世話になります。」
「精一杯、努めさせて頂きます。」
「潤弥は、剣術の稽古の傍ら…この家の事を全て、取り仕切ってくれています。分からないことがあれば、潤弥にお尋ね下さい。」
「はい。」
「正二郎様。どうぞ、こちらへ…」
潤弥は、智之介に一礼した後…
正二郎の荷物を抱え、先に立って、歩き始めた。
「先生…」
「先に、部屋へどうぞ。私は、足を濯いでから参ります。」
「そうですか…では、先に参ります。」
正二郎は、智之介に一礼すると…
少し先で立ち止まり、振り向いている潤弥の所へ…早足で、向かった。
智之介は、その姿に微笑みながら…
潤弥が用意してくれていた桶の水に、手拭いを浸した………
夕刻………
潤弥が、台所で夕餉(ゆうげ)の支度をしていると…
家人用の玄関の方から、声がした………
「御免下さいまし。」
「はい。」
潤弥が、表に出てみると…
料理屋･相葉楼の主人、雅吉の姿があった………
「雅吉さん。」
「潤弥さん。ご無沙汰しております。」
「こちらこそ。」
「いい鯛が、手に入りましたので…お持ち致しました。」
雅吉の手にした木桶の中には、見事な鯛が一匹………
「これは、素晴らしい！」
「先日、先生がおみえになった時…鯛飯を、たいそう気に入って下さいましてね。次にいい鯛が入った時には、潤弥さんにも食べさせたい…とおっしゃっておられましたので。」
「先生が…」
「はい。それで、もし宜しければ…私が、お作り致したいと思いまして。」
「雅吉さんが、直々に作って下さるんですか？」
「直々に…って。潤弥さん、大袈裟ですよ。」
雅吉は少し、困ったように微笑(わら)った………
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作者名：愁(ｼｭｳ)
作成日時：2016年6月8日 19時
