十五 ページ15
･
しばらく後………
相葉楼の二階で、勝助の様子を見守りながら…
智之介は、思案を巡らせていた………
“どうしたものか…”
恐らく…
此度(こたび)の辻斬りの下手人は、あの侍に違いないと…
智之介は、踏んでいた。
そして、侍の目星も…
智之介には、既に…ついているのだ。
「どうしたものか…」
思わず…
胸の内が声になってしまった、その時…
「失礼致します。」
障子が開き、雅吉が膳を手に現れた。
「寝ずの番では、小腹も減りましょう？ 先刻の、鯛飯をお持ち致しました。」
「おぉ！ これは、忝(かたじけ)ない。」
「鯛の骨でとりました出汁を添えてございます。鯛飯に注いで、お召し上がり下さいませ。」
「ほぅ…これはまた、美味そうだ。」
智之介は、鯛飯の茶碗に出汁を注ぎ…
茶碗に口を付け、掻き込んだ。
「美味い………」
「恐れ入ります。」
雅吉は、照れたような笑みを浮かべた。
「竜次さんが…先生の所へ、使いに行ってくれました。潤弥さんへ、子細(しさい)を伝えて来てくれております。」
「重ね重ね…痛み入ります。」
深々と頭を下げる智之介に、雅吉は慌てた。
「おっ、お止め下さいっ！ 私ごときに、そのような！」
心底、慌てふためいている様子の雅吉に…
智之介は、ゆっくり顔を上げた。
雅吉はようやく、いつもの穏やかな顔に戻ったが…
すぐに…真顔で、智之介を見つめた。
「先生…下手人は、いつ…お縄に、なるのでございましょうか？」
「そうですね………」
「店においで下さるお客様が…行き帰りに万が一にでも、辻斬りに遭うような事になれば…と思いますと、気が気ではございません。」
雅吉の、こういう…
人を、大事に思う心根が…
智之介は、とても好きなのだ。
「和馬さん達が…きっと、下手人を見つけてくれますよ………」
･
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 30人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：愁(ｼｭｳ)
作成日時：2016年6月8日 19時
