side K ページ10
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自分から左へ二つ離れた空席を見つめる、ヒロオミ。
流石は、今を時めくアーティスト…
三代目 j soul brothersのヴォーカル・登坂広臣。
男の俺でも見惚れるくらい綺麗な横顔。
だけど、今…
その綺麗な横顔は、淋しげで…儚げだ。
空になっているグラスを引き、新たなマティーニを作る。
マティーニは、彼に初めて出したカクテルだ………
あの夜……………
ヒロオミは、強(したた)か酔っていた。
「何か、作って下さい。」
赤らんだ目縁と潤んだ両瞳が、俺を見つめる。
「かしこまりました。」
今の彼には…強めのカクテルがいい。
そう考えて、滑らせたグラス。
「左利き、なんですね。」
「えっ…」
カクテルグラスに指を滑らせながら、呟くように言ったヒロオミの言葉が余りに意外で…ちょっと驚いた。
だけど…すぐに、気付く。
「字は、右ですよ。」
「えっ？」
驚いた表情(かお)で、俺を見つめる彼に…言葉をつなぐ。
「左利きって、“器用”って言われるんですよね。」
「あぁ…」
「でも、“本当の器用は、両利きだ！”って。親に徹底的に仕込まれちゃって。ウチの親、独特でしょ？」
「……フッ！」
ついさっきまで哀しげで、苦しげだった彼の顔に…笑顔が、戻った。
「俺…めちゃくちゃ、感謝してるんです。」
二杯目のマティーニに口を付けたヒロオミが、俺を見つめた。
「あの日…カズさんの突拍子もない話と、このマティーニで…俺、救われたんです。」
「そう。そりゃ、良かった。」
………ヒロオミは、綺麗な顔で笑った。
「でも、あの時の痛手は…なかなか、深くて。そんな時………彼女に、出会った。」
ヒロオミの両瞳が、また…空席を見つめる。
「どう、してるんでしょうね。Aさん…」
微かな声で無意識に呟いた彼の、綺麗な横顔が…カウンターのキャンドルに照らされ、揺れていた。
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作者名：愁(ｼｭｳ)
作成日時：2016年7月27日 16時
