side YOU ページ28
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「Aさん！」
背中越しに届いた、片岡くんの声に…気付けば、足を止めてしまっていた。
やがて…
近づいて来た足音が止んで……
右手に、温もりを感じた。
「もう一軒、付き合って下さい。」
私の右手を握る、彼の手に…より、力がこもる。
「行こう。」
彼に、手を引かれたまま…歩き出した。
・
片岡くんの行きつけだという、そのBARは…
とても、スタイリッシュで…
それでいて、落ち着きのある空間だった。
・
「……バーテンダーは、客のプライベートには立ち入らない。」
カミカゼのグラスを手に…片岡くんは突然、そう言った。
「何も、聞いてませんよ。」
「えっ…」
「ただ…純粋に、Aさんを心配してた。」
片岡くんの両瞳が、私を見つめる。
「Aさんの事が…好きなんだな……って。」
「違っ…！」
「違わないでしょ。あんな表情で、あんな事言われたら…」
「違うの！」
なんで、私…
こんなに、ムキになってるの……？
「彼…雅紀くんは……妹の恋人だったの。」
「えっ…」
「いずれは…私の義弟に、なるはずだった。」
「……」
手元のグラスに、口を付け…一度、深く呼吸した。
「三年前……妹が、事故で亡くなったの。」
「えっ…」
「突然過ぎて…涙も出ないくらいショックで…葬儀が終わった翌日、倒れてしまって……そんな私に、雅紀くんは…ずっと、ついててくれた。私が、泣けるようになるまで。」
「……」
「だから…片岡くんが思ってるような“好き”とは、違うの。何て言ったらいいのかな…家族、みたいな。そんな感じ…かな。私も、雅紀くんには幸せになって欲しい。」
本当に、そう思う。
柚鈴の事は、悲しいけど…
雅紀くんには、心から幸せになって欲しい。
彼が、周りを幸せに出来る人だからこそ…彼自身の幸せを、願わずにはいられないから。
「……Aさんは？」
「…えっ？」
「Aさん自身の、幸せは？」
片岡くんの真剣な眼差しが、私を捉えていた。
「雅紀くんの…彼のAさんへの思いも、同じなんじゃないかな。」
「……」
「彼も、Aさんの幸せを願ってる。そうじゃないのかな？」
テーブルランプの柔らかな光に照らされた、片岡くんの顔に…胸の奥が、騒ぎ出した。
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作者名：愁(ｼｭｳ)
作成日時：2016年7月27日 16時
