episode.81 ページ10
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「お久しぶりです」
一礼をした途端、周りにわっと人が集まる。
「今までどちらにいらしたんですか先輩!」
「仕事はどちらに?」
「肌すべすべですね…!」
あぁ、うるさい。
魔界の船に婚約者として囚われているのだから身体は綺麗なのは当然。そんな整った私の姿が珍しいのか、気になるのか質問責めにあう。関係ないですよね、と一言発した後"なにも変わってない"と真面目で誰の手にも乗らなかった過去の私への変わらない私への不満をぶちまけて皆デスクに戻っていった。好き勝手言ってるから、この会社もきっとここまで衰退したのだ。
集まらずにこちらをじっと見つめていた部長に一礼をしてあのこのデスクへと向かう。そこには長かった髪をバッサリ切り、ひたすらにタイピングをする友人の姿がそこにはあった。肩をとんとん、と叩く。
「……A?」
「っ久しぶり」
思わず涙ぐんでしまいそうになるのを必死で我慢する。やっと会えたという安心感が襲ってきたと同時に、変わり果てた姿に驚愕もした。痩せこけて、肌の血色も悪く、元気だった彼女の姿はどこにもなかった。
だけど愛しかった。
「…久しぶりっ」
「会いたかった」
彼女をぎゅっと抱き締めると、数日風呂に入っていない独特の異臭が私の鼻を掠めた。でもそんなことどうだっていい。だってここにいるんだから。私の、私の大好きな。
"うらたさん、ちょっといいですか"
出掛ける前にひとつうらたさんにお願いしたことを思い出した。
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巫鳥(プロフ) - この作品大好きです!これからも楽しみにしてます! (2019年12月29日 15時) (レス) id: 92f83285a3 (このIDを非表示/違反報告)
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