episode.109 ページ39
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目を開けたけれど、重い身体は中々に動かない。あぁ、気持ちが悪い。重い腰をあげて、自室を出る。長い長い廊下もだんだんと慣れてくるもので、今では近いような、そうでもないような気がする。
「…みんな、いない」
いつもなら誰かしらいるであろう部屋の扉を開けてももぬけの殻。なんならいる気配すらない。みんな、この船からいなくなったような。
「みん、な?」
いつもなら誰かが飛んでくるのに。大丈夫か?って。助けを求めれば、すぐに来てくれるのに。
怖いよ。
「…っみんな!」
久し振りの全力疾走は思ったよりも苦しくて、息がしにくかった。足も痛くなった。でもそれよりも、みんながいないことが苦しくて、次々に部屋の扉を開ける。
「…ごほっ、ヴッ…」
咳をすると同時に軽く血を吐き出した。それが信じられなくて、座り込む。痛くないのに、血、吐いちゃった。血、吐いちゃっても痛くなかった。なんで。なんで。なんでなんで。
「こわいよ…みんな、みんなぁ…っ」
いつからこんなに弱くなったんだろうと思い返そうとしても、思い出せない。なんで。なんでこんなに人の力を頼らなきゃ、生きていけなくなったのだろう。
「やだ、やだよ…わ、たし」
こんなに弱いわけないのに。ずっと泣かずに生きてたのに。
「こ、んなの、わた、し、じゃ…」
私、私。
その私って、誰、なの。
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巫鳥(プロフ) - この作品大好きです!これからも楽しみにしてます! (2019年12月29日 15時) (レス) id: 92f83285a3 (このIDを非表示/違反報告)
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