episode.104 ページ34
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「…A、遅いな」
うらたさんの言葉に頷きながら、先程の伝記を読み進める。体感2時間といったところだろうか。普通に寝ているかもしれないのに、ここの奴らはAに敏感である。
「あー気持ちよかった…ってAは?」
「風呂入るって逃げてから二時間半たってるけどまだ入ってなかったん」
「ちょっと本整理しててん、んで坂田、Aは?」
「部屋戻ったきりやで。やっぱ様子見に行った方がいいよな」
「やめとけ坂田。Aだってゆっくりしたいだろ」
俺の言葉に少し萎む坂田の横で、センラが固まっていた。
「A、体調、悪いん?」
「悪いというか…この本見た途端痛みに耐えるような顔してたで。だから部屋に送ったけど」
「それからAに会った?」
「いいや、それっきり」
そう返した途端、センラは急いで部屋を出ていった。Aと比べられないほどセンラも一瞬で顔色が悪くなったが、そんなことよりあの反応。きっとセンラはなにかを知っている。
うらたさんと坂田と顔を見合わせ、急いで後を追いかける。センラの行き先は恐らくAの部屋だろう。じゃなかったら、あいつはあんなに焦ったりしない。
「…っ」
センラの息を飲んだ声に続くように、俺らは唾を飲んだ。
「間に、あわんかった…」
そう言って膝から崩れ落ちるセンラをみる。あぁなんで。なんで。俺じゃないんだ。Aを一番に救えるのは、助けられるのは、俺じゃ、ないんだ。
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巫鳥(プロフ) - この作品大好きです!これからも楽しみにしてます! (2019年12月29日 15時) (レス) id: 92f83285a3 (このIDを非表示/違反報告)
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