episode.100 ページ30
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「…センラ、あいつに…何かしたか?」
「なんでそう思うん?」
「いや………まぁ、戻ったならいいか」
そう言ってウザ絡みをして押し退けられた坂田の元へとうらたんは戻っていった。ふぅっと息を吐いて三人に囲まれているAを見る。何もかもが、と言えばあいつの顔が浮かぶけれど、少なくともAはもとには戻った。
夜になると、俺に泣きついてくるが。
▼▽▼
「………どんどんセンラさんを憎めなくなってきて逆にしんどいです」
「当たり対象なかったら何事もしんどいやで。上司と同じ同じ」
「人間界のこと、ほんとよく知ってますよね」
「元々人間やしなぁ…志麻くんは軍人やったから考え方全然ちゃうけど。それにちょこちょこ人間界見に行ってたし」
泣き腫らした目を細めて笑うA。前まではずっと泣き叫んでいたけれど、最近は静かに泣くようになった。泣いてばっかりじゃ死にそうだなぁと思ってどっかの田中が山根を呼ぶ物真似をしたら謎の大ウケだった。人間ってほんまになんやろか。
「センラさんは一番人間捨てきれてませんね」
「本能には忠実やけど我慢はできるしな…まぁ犯罪者みたいなもんよな、人殺したし」
否定できないのだろう、渋い顔を浮かべ始めた彼女を部屋へと帰らす。空気が悪くなる前に帰すのが一番。そう気を遣っているのに気がついているのだろう。前みたいに駄々を捏ねることはなくなった。俺みたいなやつの、愛しい人を殺したやつの心を汲み取るなんて、心底優しい馬鹿なんだろう、こいつは。
「はい、おやすみ」
「おやすみなさい」
髪が顔にかかっていると顔から髪を避けた。すると、くっきりと首元で光っている金の文字。すっとなぞるとびくりと彼女はこちらを観た。
「…これ、なんなん」
「わから…ないんです。タトゥーとかそういうものでもなくて、見に覚えもなくて」
そっか、と溢してから静かに部屋を出た。うらたさん達に相談するかと一度は思ったけどすぐにやめた。
「知ってるの、俺だけでええもんな」
独占欲の、矛先は。
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巫鳥(プロフ) - この作品大好きです!これからも楽しみにしてます! (2019年12月29日 15時) (レス) id: 92f83285a3 (このIDを非表示/違反報告)
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