Crazy Moon ～騒ぎタテルごーすと～【浦島坂田船】 (ページ3)

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episode.74 ページ3

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彼は言った。

ずっとある女の子が好きで好きで堪らなくて。気持ちをどうにか吐き出したくて。卒業するから、と想いを伝えてしまおうとしていたらしかった。

けれど、それも叶わず仕舞い。臆病で勇気の欠片もない自分は何も言えずに帰ってきてしまったとか。

その後に、言われたそうだ。その女の子と仲がよかった女の子から。

｢あのこ、ずっと坂田のこと好きだったんだよ｣

その一言で、何かがはち切れたと。今まで抱えていたもの全てが無駄になったような気がして、耐えられなくなって、どうにかその友人を衝動で殺さないようにして帰ってきたのだとか。

それから、記憶がないらしい。

　｢…おれ、絶対、なんか、した｣

　｢してないですよ｣

　｢した、おれ、なんかした、俺、絶対、みんな、傷つけた｣

目元を真っ赤に腫らしながら苦痛の声をあげる坂田さんを助けたいと思った。今まで人を助けるどころか突き落として生きていたのに、今になって善が生まれたのか。どこかで芽生えた何かが私の口を勝手に動かした。

　｢…なにも、してません｣
　｢嘘や！！！！おれ、おれ、お、れ…みんな、に、嫌わ｣
　｢してないって言ってるじゃないですか！！！！！｣

突然大声を上げた私を彼は見上げる。それに答えるように、私は彼の、坂田さんの綺麗な深紅の瞳を見て言う。

　｢何もしてません、なにも、本当に、何も。船だって壊れていない、誰も怪我してない。それに、みんな坂田さんの側にいるじゃないですか！！私も、うらたさんも…！志麻さんとセンラさんだって、さっき調理場で坂田さんのためにお粥作ったり林檎剥いたりしてました！！｣

私の言葉に目を見開いて、またぼろぼろと真珠のような涙を溢す坂田さんに、私はまだ口を開けた。これ以上言っても意味はないのに。彼を傷つけるだけなのに。彼を、慰めてあげることはできないのに。ただ、反論しているだけなのに。

　｢坂田さんは欲張りです、みんないるじゃないですか……独りの寂しさ、知らない、だけです｣

ずっと独りだった自分に寄り添ってくれた彼女の存在を思い出しながら呟くと、彼は何を思ったのか、私をぎゅっと抱き締めた。