Crazy Moon ～騒ぎタテルごーすと～【浦島坂田船】 (ページ1)

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episode.72 ページ1

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　｢坂田さん！！！！！｣

　｢なんで、なんで…ほんまに、いや、いやや｣

どれだけ呼んでも何も返してくれないし反応もしてくれない。狂喜に染まった深紅の瞳は蜘蛛のようで私を罠にかけて離しはしない。さっきの狂気に滲んだ瞳が怖くて、また食べられそうになってしまうのでは、と思ったときには手が動いていた。

　｢……っ嫌！！！！｣

突き飛ばされると思っていなかったのか、坂田さんは困惑したような顔をして座り込んだ。そのままじっと動かなくなってしまった。

　(まずかっただろうか…)

私は苦虫を噛んだような、さぞ渋い顔をしていることだろう。坂田さんの様子を伺うか、否か。迎え入れたくなかった沈黙がやってくる。…苦手だ。特に坂田さん相手だと、何を喋ったらいいのかわからなくなる。彼がいつもマシンガントークをしてくるものだから、そのペースに合わせて頷くだけだった。

　｢…ごめんなさい｣

そう近づいたとき、坂田さんは顔をあげた。彼の瞳を見るのが、今は何よりも怖くて、謝罪の気持ちで向けた目を逸らしてしまった。するとまた望んでもいない沈黙がやってくる。

坂田さんにバレないよう、もう一度視線を送ると

彼の瞳から宝石が溢れた。

いや宝石じゃない。でも、綺麗ないつもの深紅の瞳から真珠のように丸い、透き通った涙は、頬を使い、染みをつくったのだ。

しゃくりも上げず、苦痛も漏らさず、うんともすんとも言わずに彼はひたすら涙を流すだけだった。

それが何故か綺麗に見えた。人が泣いているのに、苦しんでいるのに。理由も聞かずにこうして見惚れているなんて可笑しい。

でも、それが後に気にならなくなるほど、彼は綺麗だった。