海容 (不死川実弥) ページ6
常に何かに対して負い目を感じている様な、漠然とそう見えた。まるで彼奴に取ったら恍惚は罪であるかの様だった。誰よりも生き辛そうに、溜め込んだ物を吐き出す様に笑う顔をやけに忘れられないでいた。もう既に、あの時からきっと。
思えば、碌でもない人生だった。初めて殺した人は正気ではないとは言え、母親だった。その上弟に言われた言葉が未だ腹の奥底で渦巻いている気がする。俺が如何に煮え切らずにいるかを、まざまざと示して居るかの様で気分が悪い。いつも殺した分だけ心の内側が脆く崩れ落ちていくみたいだった。そんな時、俺よりも下手糞に生きる彼奴を見たもんだから、気付いた頃にはまんまと世話を焼いてしまっていて、呆れる話だ。然し、彼奴の方が息苦しそうに、噎び泣きそうに生きていた。今にも向う側に行ってしまいそうな彼奴を見てるだけで居た堪れなくて危なっかしくて、不安で仕方なかった。生半可な延命治療でも、ないより増しだと思うしかなかった。さっさと楽になれば良い。そんな顔しながら居るならこんな所辞めちまえ、そしたらお前は今より幾分か救われるだろうよ。そう思った筈なのに、上手く声にならなくて嗚咽さえも飲み込んだまま。
お前は何に怯えてる。そう言った俺の顔をやけに緩慢に見上げた彼奴はぐらつく瞳で俺を見て、息が上手く出来なくて吸い込んだ空気と共にあやふやな言葉を吐いて濁した。別に責めてる訳じゃねえのに、寧ろお前のその腹の内を見せて欲しいと思ってんだよ。また口に出しそびれた。届かなくてもいいと何処かで諦めていた。
上手く言えない、真っ直ぐ立っていられない。彼奴が、鬼になった。俺が気を抜いていたから、雑魚鬼だからと油断した。糞、情けねえ。お前に聞かなかったのはまた今度、次なんかがあると思ってたからだ。馬鹿だ、俺達みたいなのは一番明日と縁遠い癖に。血塗れの夜に死んでいく仲間ばっかりだから、星の光りも朝焼けも手向けには白々しい。死んで欲しくないやつは、漠然と此奴は死なないと思い込んでしまう。そんなのは願望でしかないと分かっていても、そうである様に祈ってしまう。お前の手向けは俺の介錯にしてやる。責めて終わらせるのは、俺がいい。
「ぁ、」
俺が刎飛ばしたのは目を丸くした彼奴の首で、鬼と言うには奇麗な瞳が滲みながら俺を映していた。それが瞞しなんだと気付いた時には手遅れで、刀を持つ手が震えた。お前のそんな幸せそうな顔を、俺は知らない。どうして。
(やっと、ゆるされたよ)
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作者名：con x他1人 | 作成日時：2020年1月30日 17時
