やさしい誘惑

＊Temptation 17＊ ページ17

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次の日、授業内容が中々頭に入ってこないのは、恐らく早く天喰さんに会いたいからだろう。

黒板に書かれた文字をただただ無心でノートに書き写し、30秒に1回は時計とにらめっこ。


はやく終わんないかな、と、そわそわ。


すると、かさ、と音を立てて机上に飛んできた紙ゴミ。

一瞬思考が停止したが、綺麗に折り畳まれたそれは恐らく手紙だろうと直感的に悟ると、相澤先生にバレぬようにそっと開いた。



《 今日も先輩のところに行くのか？ 》



綺麗な字でそう一言書かれており、下には"轟"の名前。



『(……轟くん？)』



斜め後ろの席である彼を確認するためそっと振り返ると、こちらを見つめる彼と視線が絡み合った。

同時に口パクで、わ、る、い、と言われる。

恐らく授業中に手紙を書いた事による謝罪なのだろう。



『(……轟くんがこんなことするなんて、すごい意外だなぁ、)』



なんて思いながらノートの端を破ると、"もちろん行くよ"とその手紙に対しての返事を。

相澤先生がこちらを向いていない隙を狙って、轟くんの席へ手紙を投げる。

ぱし、と難なく取った轟くんにナイスキャッチ、なんて小さく呟いた。



《 頑張れよ。応援してる。 》



数分経って届いた手紙に思わず笑いそうになってしまう。

休憩時間にでも言えばいいのに、と思ったが、授業が終わったと同時に私が飛び出す事を知っての手紙なのだろう。

轟くんは案外人の事をよく見てる。


もう1度彼へ振り返り、あ、り、が、と、う、と口パクで伝えると、今までに見たこともない程柔らかい笑みを返されて驚いた。


クールな轟くんもあんな顔できるんだな、


なんて思案した矢先、授業の終了を知らせるチャイムが鳴り響く。



『おわった…！』



がた、と音を立てて席を立ちながら思わずそう呟くと、相澤先生よりも早く教室を飛び出した。



「はやっ、」



と、クラスメイト全員が呟いた事も知らずに。



一気に3年の教室が並ぶ階まで駆け上がり、天喰さんの教室まで走る。

轟くんの応援もあってか、今日は1人でも3年の教室に入れそうだ。


目的の教室の扉に手を掛け、がらり、と開く。


と、



「！、うわっ、……し、神毒さん、」


『！、天喰さん！』



天喰さんもちょうど教室を出て行こうとしてたようで、扉を開けた瞬間に軽くぶつかってしまった。



「あ、…来てくれたんだね、」



どこか照れくさげな天喰さんに、ふふ、と笑みを零すと、



『はい、会いに来ました。』

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