【実況者】本当の君。 (ページ10)

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「A君、飲んでいるかい？おや、グラスが空じゃないか、おいキミ！早く注がないか、本当に気の利かない奴らだな…！」
「す、すみません…！」
「部長、お気遣いありがとうございます。ですが私、お酒はあまり強くないので先程お断りしたんです。部長もグラスが空いてるようですが、注がせていただいても？」
「そうかそうか、確かにA君はお酒はあまり飲まないんだったかな。ああ、ありがとう、君は気遣いのできる人だね。」

私の歓迎会という名の飲み会が始まった。
挨拶が終わった後、一番末席に座らせてもらう。
形式美として生ビールを一杯流し込んだ後、レモンサワーを氷を溶かして薄めつつ時間を潰す。
お酒に弱いわけでもないが、部長や本店の人の前で酔っ払って醜態を晒すことは避けたい。

しばらくして部長がわざわざ私の座る下座にまで歩いてくる。
そして隣に座っていた人を退かし、パワハラ染みた言動を繰り返す。
その度に私を持ち上げるように会話を終わらせるので、私に向く視線が厳しくなっていく。

ジリジリと近寄る距離に、下卑た視線が注がれる度に頬が引き攣るのを堪える。
先程から頼んでいる烏龍茶は部長の差金か、ウーロンハイになっているので飲んで話を誤魔化す事も難しい。

「…きつ。」

トイレに逃げ込んで深いため息を吐く。
いつも以上にゆっくりと化粧を直して、気合を入れ直して化粧室を出た。

「Aさん。」
「あ…お疲れ様です。」
「お疲れ様、随分と部長に絡まれてたみたいだけど、大丈夫？」

宴会場へ戻ろうと歩き出した時、声をかけられた。
壁に預けていた背を起こし、私に微笑んだのは確か…本店の軍司さん。
次期部長候補だとかいう人で、顔もそこそこに整っており優良物件だと噂されているのを小耳に挟んだ事がある。

「お気遣いありがとうございます。皆さんにご迷惑をお掛けしてしまっていて…。」
「迷惑だなんてとんでもないよ、今日の仕事も早くて丁寧で感動したんだ。通りで『部長のお気に入り』って言われるわけだ、納得したよ。」
「、はは…私なんかより、軍司さんは次期部長候補ってお噂されているの伺いましたよ。」

陰口の内容を面と向かって言われ、一瞬嫌味かと思ったがそういうわけでも無さそうだ。
かと言って心から純粋に言っているようにも見えない。
遠回しにさっさと支店に帰れと言われているのだろうか。