【実況者】本当の君。 (ページ16)

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「A君、この後予定は空いてるかい？」
「すみません、本日は予定がありまして…明日でしたら喜んでお供するのですが。」
「そうかそうか、しょうがないな。では明日あけておくんだぞ。」

定時直後に部長に声をかけられ、ヒヤリとするが思いの外すんなりと引き下がってくれたことに安堵する。
どうやら、部長が懇意にしている取引先との食事会に私を連れて行こうとしているらしかった。
面倒だという気持ちはお首にも出さず、申し訳なさを匂わせれば機嫌もあまり損ねずに済んだ。

サッと荷物をまとめてオフィスを出る。
エレベーターに乗れば、軍司さんもわざわざ遠くの方から私に手を振りつつ乗り込んできた。
キヨさんの言葉を思い出して引き攣りそうになる表情をどうにか引き締める。

「この間は残念だったね。あの後他の人たちと二次会をしたんだけど、皆Aさんが来なくて残念そうだったよ。」
「…そうでしたか。」

キヨさんと私の後をついて来ていたのに、二次会など参加できるわけがないはずだ。
私が周りの人たちに確認することなどないだろうとタカを括っているのだろうか。
そもそも、私が来ない方が他の人は喜ぶことは明らかで。
そんなに絡んでいないのでわからないが、軍司さんはもしかして空気の読めない部類の人間か。

「機会がありましたら、今度参加させてください。」

チン、とエレベーターの到着する音と一緒に、私は会釈して歩き出す。
お疲れ様でした、とここで別れたいという私の意思表現を示したが、背後からは少し慌てたような声が追ってきた。

「ぇ、部長の誘いは断ってたよね？」
「……はい、そうですが。」
「どこに行くの？俺と一緒に行く予定だよね？」

は？

と、声に出すのは堪えた。危なかった。
部長の誘いを断るのと、軍司さんと一緒に行動することがイコールで結ばれているのがわけわからなかった。
あからさまに呆けた様子の私に、軍司さんは言い募る。

「週明けにって約束したじゃないか、金曜の夜。」

そんなの会社で会うからそういう挨拶をしたんだが？？
明らかな社交辞令を額面通りに受け取ったのか？
そもそも、週明けにっていう挨拶はそっちが一方的にしてきたことでは？

「ご、ごめんなさい、週明けにっていうのは会社で会うっていう意味かと………かんちがい、してまして。」

普通はそう思うだろうとは言えず、どうにか私の勘違いということで押し切ろう。