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「 ──── A? 」
ふい、と顔を覗き込まれて我に返る。
『 ごめ、ボーッとしてた・・・ 』
「 体調悪い? 」
『 ううん、違う。ごめんね 』
あのときと同じ煙草の匂い。
別に珍しい銘柄でもないし違うってわかってるけど
一気に “ あの頃 ” に意識がもっていかれた。
もう12年も前の話。
当然会ってなければ連絡も取ってないまま、あれで終わり。
忘れられたか、と聞かれればNOと答えるしかないけれど
それでも笑い話にできるくらいには吹っ切れたつもり。
“ 初恋の人が煙草とライターを置いて失踪しました ”。
どこぞの恋愛小説の見出しか、と。
探す気もないしあれっきりで終わり、
物語は進まないけれど。
どこかで息してるならそれでいいか、って。
おばあちゃんには何も話さなかったけど
きっと気付いてたと思う。
そのおばあちゃんも、3年前に亡くなった。
大学を卒業すると同時に一人暮らしを始めて
離れて暮らすようになったけど、
歳の割には元気でよく喋るおばあちゃんだった。
あの時の入院も 原付とぶつかって骨折したからだったし。
「 それでさ、そいつが ──── 」
他愛のない話を続ける彼。
ふんわりした茶髪に 丸っこい二重のいわゆる犬系男子。
時折ふわりと漂う 甘い女物の香水の匂い。
もう終わりだな、って お互い薄々わかってるけど。
「 ・・・今日、このあとウチ来ない? 」
あの頃思い描いてた28歳とは違う。
汚い大人になってしまったな、なんて思いながら
彼の体に腕を絡めて、こくりと頷いた。
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れーと - ああもう…最高…素敵な作品ありがとうございます!!!! (9月7日 22時) (レス) @page49 id: f8da97e70e (このIDを非表示/違反報告)
雫(プロフ) - お腹いっぱいです。大満足。ありがとうございました。 (7月16日 19時) (レス) @page49 id: 19510e3ea2 (このIDを非表示/違反報告)
あんころ餅(プロフ) - 神作品過ぎます!!天元様と無事に会えるといいなでも世の中そんな甘くないか…笑 (7月16日 10時) (レス) @page38 id: 235e675cd4 (このIDを非表示/違反報告)
麦茶(プロフ) - めちゃくちゃ好きです…🥲💕宇髄さん格好よすぎる! (7月16日 2時) (レス) @page33 id: c33d2aaf12 (このIDを非表示/違反報告)
雫(プロフ) - めっちゃ好き……最高。神作。最高すぎる……宇髄さん、カッコよすぎ……好き……ありがとうございます。私は幸せです。 (7月15日 23時) (レス) @page33 id: 19510e3ea2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:檸檬 | 作成日時:2021年3月30日 22時