38 まるで別世界 ページ38
あの後、マンションまで送ってくれて
部屋まで送ると
紳士的な翔さんを
これ以上の優しさを貰うわけにはいかない！
と、必死に説得し
裏玄関の薄暗い入り口付近で
またね。
と、翔さんの
2度目の"またね"を聞いた時
1度目の"またね"は
不確実で。
2度目の"またね"は
確かなもので。
また、来週
会えるんだと
"またね"が嘘じゃないという事に。
私の心臓がまた
トクン、と小さな音を立てた。
バタン−−・・・
と、玄関のドアが閉まったと同時に
ドンっと
勢いよく
玄関のドアにもたれ掛かった私は
薄暗いなか、
うん。
大丈夫だ。
と、翔さんのおかげで少し晴れた気持ちを
実感する。
ルームシューズに履き替えた後
無造作に脱いだヒールを
綺麗に揃え
廊下を抜けると、
今朝、家を出た時と変わらないリビングが広がる。
時間に追われたせいで
そのままになっている
机に上に置かれた
トーストのお皿やマグカップ。
普段置いている場所に
置かれていない
リモコン。
静かな空間に響く、
時計の、コツコツという
秒針の音。
あれだけ1人でいたくないと思っていたはずなのに
帰って来たくないと思っていたはずなのに
月明かりに照らされたこの場所が
今はなんだか
とても居心地が良い。
所々にある、彼のいた痕跡が
思い出と共に
私の視界に入ってくるけれど、
うん。大丈夫だ。
また、翔さんの言葉を噛み締める。
これからも大事にしたっていいんじゃねぇの？・・・
惨めな恋の終わり方。
そう思ってた私に
カッコいいと。
本気の恋だったと。
周りなんか見えていなかった私に
たくさんの事を教えてくれた。
フローリングからの
スーッと
スリッパ越しからでも伝わってくる
冷気を振り払うように
小走りに
ペタペタと廊下へ向かうと
小さな収納スペースの
奥の方の右側の壁に
ピッタリと
くっついている
畳まれた、ダンボールを取り出し
引っ越してきた時に、
何かのためにと
残しててよかったなと思いつつ
またリビングに戻り、
ダンボールを組み立てた。
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作者名：希生 | 作成日時：2014年2月11日 18時
