～花冷えの時～【SYО】 (ページ1)

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時雨１ページ1

ぼく、野原秋斗の放課後は非常に忙しい。

市内の小さな高校に通う17歳であり、一応茶道部の部長でもあるぼくは、

秋に向けての模様しものの準備に追われていた。

さらにあろうことか半ば押し付けられる形で生徒会の書記にも任命されていて

毎日を翻弄･･･翻弄。

だが中間試験も迫ってきた今、その煩雑な忙しさもだいぶ薄れた。

小学生からなぜか関心を持っていた日本史学のおかげで、京都の大学院へ行くことも

既に決まっている。これに限ってはずっと１位を取り続けてきたからだ。

ことにこの日は金曜日、土日の連休を前に学生たちはふわふわした気分を隠せな

いでいる。

「野原ー。今日ひま？俺らカラオケ行くんだけどさ、野原も一緒にどう？」

心地よい風に吹かれて、どことなく浮かれた級友の声。遊びの誘いに

僕はつれなく首を振った。

「ごめんね、今日は都合つかない。･･･でもなんでぼくなんか？」

級友に話しかけられたのは本当に久しぶりだった。

「人数合わせ、なんとか都合つかねえ？」

「･･･ごめん」

「なんでっ！頼むからさ」

少しばかりしつこい級友に苛立ちを覚える。今日はこれから茶道部に顔を出してから

職員室で仕上がった歴史のレポートを提出して、そのあと生徒会のミーティングに

参加しなくてはならない。こんなところで足止めされている時間はないのだ。

「頼まれても無理なんだ。やること、いっぱいあるし･･･うちにいる弟、

まだ小さいから、面倒見てあげないと危ないから･･･」

「は･･･？お前んち弟いんの？」

「うん。･･･じゃ、またね、」

「またね、って････おい、ちょっと！」

「ごめん急ぐから！」

話は終わった。フラれた級友は不満そうにしていたが、別の誰かが宥めるような

声を出すのが背後から聞こえてきた。

「無理言うなって。しょうがないだろ、秋斗んち、今大変なんだから」

「え、大変ってなんで」

「あそこんち、お母さん入院してるだろ。それに親父さんが付き添ってるから

いま家事してんの秋斗らしいぞ。後、弟ってのが障害持ちだって」

「うえ、なにそれ」

気の毒、という声が聞こえたが別に同情されるいわれはない。今のぼくはひたすら、

目的地に向けて進むのみだ。

「･･･あ、時間ない」

腕時計を確認して、走り出す。

さっさと用事を終わらせて弟の傍に帰りたかった。4歳の一人は本当に危ないし、

･･････翔は、ただでさえ寂しがり屋だ。