検索窓
今日:14 hit、昨日:3 hit、合計:10,802 hit

ページ ページ29

?
 じっと。澪はこの泥水のように濁り重苦しい空間で思考を巡らせていた。“片方を選ぶ”ということは当然“片方を見捨てる”という事。そして今回決めるのは大切なメンバーの生死。年下にそんな物負わせるわけにはいかない。自分に、先輩はいない。倣うべき前はいない。メンバーの顔を見て、一つため息を吐く。


「しうちゃん……最年長として言うよ。それは看過できない。」


 いつもは笑っている瞳が時雨を見据える。心なしか、口調も平時より荒い。それほど彼女もこの空気の中で耐えられないのだ。どちらを選んでも、誰かを傷つけてしまう。誰もが望むハッピーエンドなんて、選択肢の中にないのだ。


「……さっき、クマの意地の悪さを見たでしょう。それに、おそらくクマは命を軽々しく扱っている。そんな相手に命を対価にした取引はお勧めできないよ。」


 この場で最も長い時間を生きた者は、静謐に語った。それはとても冷静で、正しくて、それでいて、一番辛いことだった。それでも彼女は話さなければならないのだ。最年長、それが彼女を苦しめる枷となっていた。


「この場で、私達の脳を失う訳にはいかない。……そして、冷静さも……失ってはならない……」


 そして澪はおもむろに立ち上がり、ひなたの背後で足を止め、少しじっとしててね。と、静かに、優しく少女の耳を塞いだ。そのささやきは、この世にある何よりも優しいものだった。


「狡い事をして、ごめんねぇ。でも私の選択は、きっとこの子に影響を与えてしまうから……」

「私は……ゆむちゃんを選ぶよ。今回みたいな事は……腹立たしいけど、このゲームが終わるまでこの先幾つもあると思う。その時に必要なのは、冷静さだと判断したの。」


 声こそ平常を保っているが、目が泥色の空気を泳いでいる。未だひなたは状況を理解できていないのか、困惑している、とぐるぐる回る目が語っていた。そんな彼女のことを真正面から見ることが出来ず、澪は言葉を続けた。


「路望ちゃんの意見ももちろん分かる。いろはちゃんだって辛いのも分かる……私だって、何かの衝撃で揺らいでしまいそう。」


 ひなたの耳を塞ぐ指先は、もう冷え切っている。心臓が早鐘を打っている。選びたくなどないと、心が叫んでいる。それでも、紡いだ言葉は、形にしきらなくては。だって、私は最年長なのだから。私より年若い子の子たちに、決断をさせるわけにはいかない。

次ページ→←前ページ



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (28 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
23人がお気に入り
設定タグ:募集企画 , 本編 , オリジナル作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

(プロフ) - きゃらめる@ぱんけえきさん» コメントありがとうございます。そう言ってもらえると嬉しいです。今後ともあいです!をお楽しみいただけたら幸いです。 (3月29日 22時) (レス) id: f84a20cb2a (このIDを非表示/違反報告)
きゃらめる@ぱんけえき - とっても面白いです!アイドルたちがデスゲームをするのはなかなかユニークなご企画ですね! (3月29日 21時) (レス) id: 9b744e7a21 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名: | 作者ホームページ:無し  
作成日時:2024年1月13日 11時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。