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 重々しく口を開いていくメンバーの姿を、時雨は悲痛な面持ちで見つめていた。元来喜怒哀楽が表情に出にくく、いつも眠たげな雰囲気を醸し出している彼女だが、この非日常的な状況に陥った今では眠気など吹っ飛んでしまったようだ。自分もなにか発言しなければ、何方を助けるか決めなければ。そう考えてもまるで喉に何か引っ掛かっているかのように思うように声が出ない。眠り姫と言われる彼女は本当に茨に囚われているように指一本、動かせなかった。

”私はエフェドルのブレインなのですから、他の方々に重荷を背負わせてはいけません。決めなさい、時雨”

 自分を急かすように心の中で鼓舞しても、緊張と絶望で粘ついた喉からはカヒュッ、という短い呼吸音が聞こえるばかり。時雨はそんな情けない自分に心底失望した。所詮はただの中学生。いくら頭が良くても、大人びていても、まだ大切な人の生死を司るには早すぎるのだ。


「……私には選択権がありません。時雨のような取るに足らない子供に、あのような素晴らしい方々の命の重さを計る天秤など、扱えるわけがないのです。」


 絞り出すように出した声。そこには微かに涙が滲んでいた。いつも冷静に物事を決定する彼女の初めて見る姿に周りには動揺が広がる。そんな周囲の様子を気にもとめず、一度口を閉じた彼女は熟考の末、ある”最高”で”最悪”の選択肢に思い当たった。この決断による弊害は腐るほどあるし、これによってゲームオーバーになってしまうかも知れない。そんなネガティブな”たられば”が時雨の心を徐々に蝕んでいく。しかしながら、彼女にはもう他のことを決断する余力など、残されていなかったのだ。


「わ、わた、私が身代わりになりますっ!くまさんもご存知でしょう!?ひ、雲雀家には莫大な資産と強力な権力、そして確固たる地位があります……お金も権力も地位もいくらでも差し上げますから!私をどんな方法でいたぶって頂いても構いませんから!!!」


 だから、どうか、どうか、あの方達だけは。恐怖をじっと我慢するかのように衣装の裾をギュッ、と握り、時雨は音沙汰のないモニターへと声を張り上げた。美しいタンザナイトの瞳からはポロポロと大粒の涙が零れ、嗚咽を封じ込めるかの如く唇を噛み締めている。そんな痛々しい姿になりながらも、彼女は周囲の様子を伺った。

 モニターは勿論なにも映さず、必死に懇願している時雨の姿をあざ笑うかのように沈黙を貫いていた。

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(プロフ) - きゃらめる@ぱんけえきさん» コメントありがとうございます。そう言ってもらえると嬉しいです。今後ともあいです!をお楽しみいただけたら幸いです。 (3月29日 22時) (レス) id: f84a20cb2a (このIDを非表示/違反報告)
きゃらめる@ぱんけえき - とっても面白いです!アイドルたちがデスゲームをするのはなかなかユニークなご企画ですね! (3月29日 21時) (レス) id: 9b744e7a21 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作者ホームページ:無し  
作成日時:2024年1月13日 11時

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