29話 ページ29
「あっ…」
ヒュッと刀が手から零れ落ちて、情けない声が出た。
「どうした?俺が知っている冨岡Aはこんなに弱くない。余所見ばかり間合いの詰めかたも雑、足取りもバラバラ、一体どうしたのかね」
「…いえ」
伊黒さんのうねるような刀に苦戦していた。
目が覚めたら藤の花の家紋の家にいたけど、すぐに挨拶をして稽古に戻ったもののミスが多い。
「集中できないなら参加するな。」
「…してるし」
「していない。目の前の攻撃に集中できない奴に何を教えても無駄だ。」
「まだ出来ます」
「できない。今のお前には何もできない誰も救えない、今鬼が活動を再開したらお前はただの足手まといだ。」
「………」
零れ落ちた木刀と、息切れもなく余裕な伊黒さん、一方的に私がやられた跡が答えだった。
何も言い返せなかった.
「…疎遠だった奴とたかが一度話しただけで解決できると思うな。」
特にお前らは口数が少なすぎるからな。と口数が多すぎる伊黒さんに指摘された。
「…だって兄さん、何考えてるかわからない。」
帰れっていう声は冷たかったけど、その表情はしんどそうだった。
「そんなの俺だって分からない。というかお前も大概だがね」
「……」
休憩して良いと鬱陶しそうに言われて、その場でしゃがみ込んだ。
そうして初めて立っていることさえ困難だったことに気付いた。
「…上弦と戦った時も、25で死ぬと言われた時も一切心配してくれなかった。」
「………」
「なのに、死んだら私に目を向けてくれるかって聞いたら怒ってた。」
ふざけるなって、半開きの目開いて、普段ボソボソ喋るくせに声張り上げて。
それはまるで、まるで…
「死んで欲しくない、みたいに」
100回相手にされなかったとしても、その1回が縋るほど胸に響いた。
「お前も人間だな」
「そりゃあ」
「悩んでる姿を見て再認識した。」
伊黒さんはしゃがみ込む私の方へスタスタやってきて、細い指で私の髪を撫でた。
「…して、15歳だな。」
感情豊かで正直で、よく悩んで泣き虫で、
そんな、子供。
「もうすぐ16歳だもん。」
「15も16も変わらない」
「え、伊黒さん計算できないの?1足されるんだよ」
「悪意がないのが腹立つね。早く稽古再開するぞ馬鹿め。」
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柊蓮(プロフ) - 毎年、誕生日に読んで号泣してます…大好きです。この作品も、同じ作者様の作品も。ついに夢主ちゃんとおんなじ16歳になりました…来年もまた読みに来ますっ素敵な作品を本当にありがとうございます。 (2月9日 1時) (レス) @page50 id: 4d2be51c25 (このIDを非表示/違反報告)
芽依 - ボロ泣きです、、最高です、後日談までもう泣けてくるんですが、、すれ違う兄妹の書き方が神ってますね、素敵な作品を読ませていただきありがとうございました、、! (1月30日 10時) (レス) @page50 id: e9435a06b7 (このIDを非表示/違反報告)
ひよ(プロフ) - 涙止まりませんでした、、、出会えて良かったです、、、 (11月24日 13時) (レス) @page50 id: 477ea6ec3d (このIDを非表示/違反報告)
ピンス - 流石に泣きました。後日談も最高です。神作品ありがとうございます… (11月10日 23時) (レス) @page50 id: 18a9383861 (このIDを非表示/違反報告)
てんごく(プロフ) - めっちゃ泣きました。凄い良いお話です (10月5日 18時) (レス) @page50 id: e622d65d6b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:だむい | 作成日時:2020年7月26日 20時