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「 ホントに帰るの? 」
「 うん、今日までの支払いあったの忘れててさ
また来るよ 」
「 そっ、か、おっけ、絶対また来てよ 」
「 あたりまえ 」
彼の家に来た時は “ 泊まる “ と言っていたのに
この感情になってると
いくら恋人でも一緒にいるのはキツい
一人の空間に篭って虚無感に浸ってるのが
一番の解決方法
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「 しょたくん髪切った方がええんやない? 」
「 良いよ別に、美容室行くのだるい 」
「 そんなら俺切ろか、俺好みにセットしたるで 」
「 … なら任せよっかな 」
確か、夏
その日は暑くて、一歩も外に出ずに冷房を付け
家でゴロゴロしていた頃
同棲も視野に入れていて、喧嘩もちょくちょくあったけど
必ず話し合って仲直りしてはイチャイチャしていた
もう、9年前の事
「 あんま動かへんで 」
「 くすぐったいそれ 」
「 あんたがバリカンで後ろやってって言うからやん 」
笑いながらバリカンで後ろを刈り上げる向井
美容意識は俺には及ばないけど
何かとなんでも出来る人間だった
前髪を切ってもらったり、枝毛を切ってもらったり
特にこんな暑い日や寒い日が重なると家から出たくない俺だから
どこかに行ったりしないと出来ない事は
全部向井に任せていた
二人でいれる口実ができるから、とても幸せ。
「 うん、めちゃくちゃ似合ってる 」
刈り終わって前髪も整い、セットも終わった頃
向井は俺の顔を覗いて微笑みながら頷く
この距離はもう、キスするしかないでしょ
なんて思い、顔を傾けた時
「 … あ、ごめん電話や、待っててな 」
遮る様に向井の携帯電話が震えて音を出す
画面は見えなかったけど、俺の前では出ない向井
いつもは必ず出るのに
なんて思うけど仕方ない、巻いている新聞紙を取り
髪の毛が落ちないように新聞紙を畳めばゴミ箱に捨てる
声は薄らとしか聞こえないけど
なにか楽しそうに話していた
昔の友達からの久しぶりの電話かな
それとも遊びに行く約束かな
自分の中でポジティブに変えて思いこみ
テレビを付けてひたすら向井を待つ
「 片付けてくれたん?ごめんなあ 」
満更でもなさそうな笑顔
「 誰と電話してたの? 」
疑いも無く聞いた俺に向井は
「 … なんでもないで 」
何かを隠した。
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作者名:渚 | 作成日時:2022年4月29日 21時