おかえり。 (ページ2)

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「いらっしゃいませ〜」

長くなった前髪をかき上げて、自動ドアの方を見ればもう客はいない

そんなに急いでも商品は逃げねぇぞ、と思いながら

レジに手を置いて商品を選ぶ客を見る

朝のこの時間にそんな買うなよ

と、カゴの中を見ながら心の中で文句を言うが

レジ前に来てみれば

「いらっしゃいませ、いつもありがとうございます」

なんて、「優しい店員さん」を演じる

疲れはしないけど気ダルさは残る頭に飽き飽きしながらも袋に商品を詰めて

お客さんに渡し、出ていくのを見ながら

「ありがとうございました」

と言う。

こんなに礼儀正しくあれこれしたのに時給が最低賃金ギリギリライン

もっと上げてもいいよな

なんて思うけど、将来の夢なんかない俺には

こういう仕事が向いてるんだろうな

「渡辺くん、そろそろ休憩取れそう？」

「あ、もうそんな経ってるんすか？んなら休憩取りますよ、忙しくなったら呼んで下さい」

「助かるよ、ありがとう」

一歳俺の方が歳上だけど、店長をしている阿部さん

小学二年生の娘さんがいて、奥さんを五年前に亡くしている

真面目で優しくて気遣いが出来て自己管理が完璧

大人の例

って感じの人だ、俺も見習えよなんて言い聞かせる事があるけど直ぐに忘れて

俺は俺だ

なんて屁理屈思うから成長しない

だからまだ男で遊んでんだよ。俺。

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