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茫然とする田中と先ほどよりさらに盛り上がる後方の男子たちを無視して、この傍若無人な男は私の手首を掴み反対の肩で2人分の鞄を背負うと、帰るで、と一言だけ言った。
「そんなにカップケーキ好きだったっけ」
「別にぃ?」
まっすぐ昇降口に向かうチーノに部活に顔を出さなくていいのかと尋ねると、ショッピが俺の分も頑張るから大丈夫、と訳の分からないことを言われた。
2人で帰るのはずいぶん久しぶりな気がする。
「私ので4個目じゃん」
「しっかりチェックしてんねんな」
「…うるさ」
さっきまで僕ちょっと機嫌悪いです、みたいな態度だったくせに、今度は機嫌よさげにんふふ、と笑う。何が楽しいんだか。こっちはボロボロだというのに。
「でも実際これ俺のやろ」
「自意識過剰なんじゃない?」
「Aこういうの俺に用意しないことないやんか」
何もかもお見通しというわけだ。隠す方がばかばかしいような気もする。
「まあ…うん。チーノにあげるつもりだったよ」
あんたがあの子たちから貰って、サービスと言わんばかりに手を握ってるところを見るまではね。そう言いたいのをぐっと堪えて、正直にチーノのために用意したということだけ伝えた。
「んふふ、ありがとうな。でも田中にくれって言われてマジであげようとしたのはあかんよなぁ」
「…いや、私が作ったんだからどうしようが私の勝手じゃない?」
「んー」
どうも納得いっていないような表情をするのだから驚きだ。
そしておもむろにぴたりと立ち止まって私と向き合った。両手をチーノの大きな手でぎゅっと握られ、いつになく真剣な目で見つめられる。少し厚めの眼鏡の向こうの瞳は昔と変わらない。
「俺以外の男にお前が作ったもん食われるの、嫌や」
ああ、なんてずるいんだこの男は。自分は他の女子からのそれを断りもせずに受け取る癖に。彼女たちからのまっすぐな好意を跳ねのけない癖に。私にだけそんなお願いをするなんてずるい。
そんな可愛くない言葉は飲み込んでしまう。そうして、傷だらけになってパラパラと破片をこぼしていた私の心にはまたぺたりと絆創膏が貼られた。原型がだんだんわからなくなってくるほどに歪になって、それでも何とか形を保ちながらぐらぐら揺れる。
やっぱり、どうしようもなくチーノが好きだ。
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薄暮(プロフ) - とてもこの作品に心を打たれました、感謝です!Twitterの方フォロー申請を送りましたがDMが送れずましゅまろに送らせて頂いたしろくれです。ご確認頂ければ助かります。 (7月19日 1時) (レス) id: 5d47810ff6 (このIDを非表示/違反報告)
える@脅威推し - かれんちゃん・・・あつ森・・・ヴッ 頭が (2022年4月19日 16時) (レス) @page14 id: 68204072c5 (このIDを非表示/違反報告)
牛タン(プロフ) - じばくとっこうたいさん» コメントありがとうございます!私自身、書きながらなんでshpくん報われないんだ?と思っていました。ナンデヤッ。これから番外編でshpくんサイドのお話を少し書こうと思っているので、そちらもお楽しみいただければと思います! (2022年4月14日 20時) (レス) id: ddd9b490a0 (このIDを非表示/違反報告)
じばくとっこうたい - 遅くなりましたが、完結おめでとうございます。更新される度に、いつもワクワクしながら読ませていただきました。夢主ちゃんとciとの関係も好きですが、やっぱり私はshp君を推したい…と悶えてました。本当に大好きです。次回作も楽しみにしています! (2022年3月23日 18時) (レス) @page32 id: 8209a7a990 (このIDを非表示/違反報告)
牛タン(プロフ) - スイさん» コメントありがとうございます!思わせぶりなciくんも、一途な夢主も、お互いがお互いのことをずっと好きだったんじゃないかなと思いながら書きました😊大好きと言っていただけてとたも嬉しいです!お付き合いいただきありがとうございました! (2022年3月23日 1時) (レス) id: 08f70284ce (このIDを非表示/違反報告)
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