喧騒 ページ32
大通りから少し外れた所にある酒場に三人はいた。
昔ながらのウエスタンドアが迎える店内は主に男性客が占めている。
運ばれてきた料理がテーブルを埋め尽くし、Aは目を輝かせた。
Aはカリカリに焼かれたベーコンと目玉焼き、そして新鮮な葉野菜が挟まれたバゲットを両手で掴み
その小さな顎でもって食いちぎる。
表面はパリパリとしているが中の生地はもっちりとしたパンは、思っているよりも噛む力を必要とする。
咀嚼を続ければ口内には濃厚な卵黄に塩気と旨味を強く孕んだ肉の味、
シャキシャキとした歯ごたえに小麦の甘みがふんわりと混ざっていく。
こくりと喉を鳴らし嚥下するとAはほう、と一つ息をついた。
「こんなに美味しいもの、初めて食べた……」
そんなAを愛おしげに見つめる男二人は柔らかに笑う。
「美味そうに食うんだな、こんだけ頼んだかいがあったぜ！」
茹でた腸詰めに溶けたチーズのかかったものを口に放り込みながらトールが言う。
アスールは何も言わないが炙られた骨付き肉を囓りつつ、Aの方に果実水のグラスをやった。
Aはなんとも言えない幸福感と罪悪感を抱いた。
……あの時もっと上手くやれていれば、マーカスもここに居れた未来があったのかな……
Aが食べる手──いや口を止めたと同時に入り口に取り付けられた木の扉が高く細い音を奏でた。
瞬間、これまでの賑やかしさとは全く別のざわめきが場を支配した。
この店はそれなりに繁盛しており、昼時に客がやってくることはいつも通りの光景だ。
つまり来た客自体に何か驚かれる要素があったということなのだろう。
A含む三人は視線だけでその闖入者を捉える。
それは武装した男の二人組であった。
フルフェイスのヘルムに腰に佩いた剣からフルプレートの鎧まで二人は全く同じものを身に着けており、背丈の微妙な違い以外ではどちらがどちらか判別はつかない。
武装している者が町中をぶらついている事自体はこの街では何ら珍しくはない。
聞くところによると冒険者ギルドとかいう組合があるそうで、その辺の無頼漢と区別がつくように首から認識票を提げているそうだ。
しかしこの二人は認識票を提げていない。
だからここまで騒がれているのだろうか、だが同じく認識票無しに武装しているアスールが入ってきた時はもう少し小さなざわめきだったはずだ。
ではその不審者じみた格好が人々を驚かせたのだろうか。
「……マジかよ」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 159人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
あああああ(プロフ) - kohakuさん» コメントありがとうございます！とっっっっっっっても嬉しいです！！！続きは鋭意執筆中ですのでもうしばらくお待ち頂けたら、と思います！あまり時間がかかり過ぎないよう頑張ります！ (2021年3月25日 23時) (
レス) id: 1513927827 (このIDを非表示/違反報告)
kohaku(プロフ) - とても素敵な物語に引き込まれました、続きが楽しみです！更新頑張ってください！ (2021年3月21日 21時) (レス) id: 5df933aa41 (このIDを非表示/違反報告)
あああああ(プロフ) - 紅紫（（うっせぇわさん» とても沢山のお褒めの言葉、ありがとうございます！これから続編へと入るのでこれからもどうか宜しくお願いします！ (2021年3月15日 3時) (レス) id: 1513927827 (このIDを非表示/違反報告)
紅紫（（うっせぇわ - なんて言ったらいいんでしょう。凄くこのお話の中に吸い込まれていって自分がそこにいるかのような…表現の仕方とか自分がしっかりとそこにいるような。これらをまとめて『GOD作品』と言う。辞書で調べて下さい。出てきます。 (2021年3月10日 21時) (レス) id: 37c73b0d69 (このIDを非表示/違反報告)
あああああ(プロフ) - wyさん» コメントありがとうございます！あまりにも嬉しくて手が震えてます…最近は更新頻度が落ちてきてますが、ちゃんと最後まで続けますのでこれからもよろしくお願いします！ (2019年9月8日 14時) (レス) id: 1513927827 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：あああああ | 作成日時：2019年4月21日 20時
