蠢動 ページ15
馬車が襲われたのは国境から程近い山を越えようとしていた時だった。
急いで山を駆け下りる。
法規制の厳しい隣国へ入ってしまえば、不法入国で捕まえられる事はあっても奴等に襲われる心配はなくなる。
しかし人の足で走っていては隣国の領土までどれ程かかるか知れたものではない。
ちなみに馬で駆けて半日の距離である。
マーカスは馬車の馬を奪えれば、と言っていたが御者台に人がいたので出来なかった。
夜になんの灯りも持たない素人二人で山を駆け回ることは自死行為にも等しかったが、他にどうすることもできない。
「はぁ……はぁ、彼らは追ってきてますか?」
「ううん、たぶん大丈夫」
「よかった……」
小一時間は険しい山道を走り続けてきた二人はすっかり疲れきっており、思わずへたり込む。
「ねぇ、寒くない?」
「私は平気ですよ、それよりAさんもどこか痛む所等ありませんか?」
「僕も大丈夫、君のおかげで……」
Aは客から食べ物だの金だの服だのを大量に貰っていたが、仕事でない時はサイズの合わない古いシャツを着せられていた。
当然靴もない。
それでは山を駆けるのは難しいと、マーカスは自分の服と靴のスペアを与えていた。
大木に背を預け休んでいると荒くなっていた息も整い始め、辺りは風が葉を揺らす音で満たされる。
上手くいくのかな……上手くいくといいけど
不意にAは左肩を叩かれた様な気がした。
マーカスの座っている側の肩だ、何かあったのだろうか。
「ん?どうかした、の……」
マーカスの方を向こうとすると、肩に激痛が走った。
思わず右手をやると服が湿っている。
矢が刺さっていた。
「A!」
マーカスは自分の服を破りAの肩口を強く縛り、矢を抜きにかかる。
しかし緩くなっていた鏃が体内に残る。
こうしておけば獲物の傷が塞がることはなくなり病に罹りやすくなる。
ひいては巣穴で伝染病が流行り群れを一網打尽にできるという狩人の知恵だ。
思わず舌打ちが出る。
「A!逃げます!」
そういうと両腕でAを抱きかかえ、マーカスは走り出した。
音もなく忍び寄って来てこの闇の中で自分達を正確に射抜いてきた相手だ。
これでは逃げ切ることは不可能。
「いたぞ!あそこだ!」
夜に忍んだ追手が声を張り上げる。
馬が走り寄ってくる音がした。
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あああああ(プロフ) - kohakuさん» コメントありがとうございます!とっっっっっっっても嬉しいです!!!続きは鋭意執筆中ですのでもうしばらくお待ち頂けたら、と思います!あまり時間がかかり過ぎないよう頑張ります! (2021年3月25日 23時) (レス) id: 1513927827 (このIDを非表示/違反報告)
kohaku(プロフ) - とても素敵な物語に引き込まれました、続きが楽しみです!更新頑張ってください! (2021年3月21日 21時) (レス) id: 5df933aa41 (このIDを非表示/違反報告)
あああああ(プロフ) - 紅紫((うっせぇわさん» とても沢山のお褒めの言葉、ありがとうございます!これから続編へと入るのでこれからもどうか宜しくお願いします! (2021年3月15日 3時) (レス) id: 1513927827 (このIDを非表示/違反報告)
紅紫((うっせぇわ - なんて言ったらいいんでしょう。凄くこのお話の中に吸い込まれていって自分がそこにいるかのような…表現の仕方とか自分がしっかりとそこにいるような。これらをまとめて『GOD作品』と言う。辞書で調べて下さい。出てきます。 (2021年3月10日 21時) (レス) id: 37c73b0d69 (このIDを非表示/違反報告)
あああああ(プロフ) - wyさん» コメントありがとうございます!あまりにも嬉しくて手が震えてます…最近は更新頻度が落ちてきてますが、ちゃんと最後まで続けますのでこれからもよろしくお願いします! (2019年9月8日 14時) (レス) id: 1513927827 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あああああ | 作成日時:2019年4月21日 20時