拭って尚残る ページ41
アスールが冗談めかしてとんでもないことを言い残し部屋を出て行き、空間に静謐が満ちる。
「ったく、男相手に変な気なんて……」
起こすはずが、と言葉を続けようとしたトールはベッドに眠るAに目をやり、口を噤む。
初めて見てから風呂場で本人に聞くまでずっと女性だと思っていたのだ。
彼が男だと知った今でも、こうしてその寝顔を見ているとあまり実感が湧かないが。
「ん、う……」
Aが身動ぎ、暑かったのか布団を跳ね除け側臥位になる。
なんとなく幼い子供を思わせる動きにトールは微笑ましいものを感じ、布団を掛けなおしてやろうとベッドへと更に近付いた。
「あ、……」
瞬間、後悔した。
布団という視覚的遮蔽物がなくなり、はだけた衣類から伸びるすらりとした手足や劣情を掻き立てる胸元が露わになっていたのだ。
トールは己の浅慮を激しく後悔した。
見てはいけないものを見てしまったような気がして、恥ずかしさと申し訳なさと獣欲とが混乱する。
そのまま布団をかけ直すことも忘れ、トールは駆け出した。
部屋の扉に手をかけ、廊下から階段、階段からロビー、建物の外へ。
こうして部屋に一人取り残されたAは、ゆっくりと上体を起こした。
寝てた……?ここはどこで今は何時だろう
Aはぼんやりと寝ている間に聞こえてきた声を反芻した。
何もしない……男相手に変な気なんて……
金髪の少年の言葉が胸に残っていた。
今までは店で会う人会う人に体を求められていたAには初めての経験だった。
そっか、ここはもうお店じゃないから僕としたいって思ってくれる人だけじゃないのか
それはとてつもない恐怖だった。
自分はこの体を売ることでしか価値など出ないのに、それを欲されなくなったら自分はどうすればいいのか。
この体を必要とされなくなった時が、自分自身が必要とされなくなった時である。
Aはそう考えていた。
体を売らないと、誰にも愛されない、他に価値がない、求めてくれないと満たされない。
Aはなまじ客観的に自分を見ることができるせいで自己評価が低かった。
……あれ?僕、僕にできることなんて何もないのに……こんなところで何してるんだろう
Aは未だ寝不足で重い体を引きずり外へ向かった。
誰かに否定された分を誰かに埋めてもらいたかった。
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あああああ(プロフ) - kohakuさん» コメントありがとうございます!とっっっっっっっても嬉しいです!!!続きは鋭意執筆中ですのでもうしばらくお待ち頂けたら、と思います!あまり時間がかかり過ぎないよう頑張ります! (2021年3月25日 23時) (レス) id: 1513927827 (このIDを非表示/違反報告)
kohaku(プロフ) - とても素敵な物語に引き込まれました、続きが楽しみです!更新頑張ってください! (2021年3月21日 21時) (レス) id: 5df933aa41 (このIDを非表示/違反報告)
あああああ(プロフ) - 紅紫((うっせぇわさん» とても沢山のお褒めの言葉、ありがとうございます!これから続編へと入るのでこれからもどうか宜しくお願いします! (2021年3月15日 3時) (レス) id: 1513927827 (このIDを非表示/違反報告)
紅紫((うっせぇわ - なんて言ったらいいんでしょう。凄くこのお話の中に吸い込まれていって自分がそこにいるかのような…表現の仕方とか自分がしっかりとそこにいるような。これらをまとめて『GOD作品』と言う。辞書で調べて下さい。出てきます。 (2021年3月10日 21時) (レス) id: 37c73b0d69 (このIDを非表示/違反報告)
あああああ(プロフ) - wyさん» コメントありがとうございます!あまりにも嬉しくて手が震えてます…最近は更新頻度が落ちてきてますが、ちゃんと最後まで続けますのでこれからもよろしくお願いします! (2019年9月8日 14時) (レス) id: 1513927827 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あああああ | 作成日時:2019年4月21日 20時