嘆息 ページ11
ここから逃げる……?
そのことを頭に浮かべたのはいつぶりだっただろう。
Aもここに連れて来られた当初───もう忘却の彼方にある遥か以前───には逃げ出したくてたまらない時はあった。
無惨な暴力と永遠とも思えるような時間とが、彼の精神を極限まで擦り減らしたのだ。
「ちょっと待ってよ……急に、そんな」
有り得ない。無理だ。
その思考に至るのは何もAがひどく消極的な性格であるからという訳ではない。
A自身が幾度となく脱出を図ったことがあった。
幾度となく彼以外の従業員の脱走とその末路を見てきた。
誰だって一度も成功していない、バレたら今より酷いことをされる。
それは長き時を経て蓄積された経験。
そんな呪縛に縛られ動けなくなってしまうのも無理からぬ事であった。
身が竦む。こわい。
そんなことできない。
視界が狭くなり鼓動が早くなる。
しかしマーカスはその全てをわかっているかのように更に言葉を続けた。
「大丈夫です、私を信じて……私はそのためにここへ来たのですから
何をしてでも貴方だけは無事に外の世界へ……」
眩しいくらいに真っ直ぐな彼。
Aは今にも泣き出してしまいそうになった。
「意味がわからない……どうして君がそんなことする必要があるの」
あまりにも鈍感な言葉。
しかし誰がAを責められよう。
Aはただ、知らなかった。
目の前の男の視線が孕んだ熱に、尽くされる意味に、
気付けなかった。
マーカスは少しはにかんだように微笑んだ。
「烏滸がましいことだとはわかっていますが、貴方のことが好きだから……愛しているからですよ」
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あああああ(プロフ) - kohakuさん» コメントありがとうございます!とっっっっっっっても嬉しいです!!!続きは鋭意執筆中ですのでもうしばらくお待ち頂けたら、と思います!あまり時間がかかり過ぎないよう頑張ります! (2021年3月25日 23時) (レス) id: 1513927827 (このIDを非表示/違反報告)
kohaku(プロフ) - とても素敵な物語に引き込まれました、続きが楽しみです!更新頑張ってください! (2021年3月21日 21時) (レス) id: 5df933aa41 (このIDを非表示/違反報告)
あああああ(プロフ) - 紅紫((うっせぇわさん» とても沢山のお褒めの言葉、ありがとうございます!これから続編へと入るのでこれからもどうか宜しくお願いします! (2021年3月15日 3時) (レス) id: 1513927827 (このIDを非表示/違反報告)
紅紫((うっせぇわ - なんて言ったらいいんでしょう。凄くこのお話の中に吸い込まれていって自分がそこにいるかのような…表現の仕方とか自分がしっかりとそこにいるような。これらをまとめて『GOD作品』と言う。辞書で調べて下さい。出てきます。 (2021年3月10日 21時) (レス) id: 37c73b0d69 (このIDを非表示/違反報告)
あああああ(プロフ) - wyさん» コメントありがとうございます!あまりにも嬉しくて手が震えてます…最近は更新頻度が落ちてきてますが、ちゃんと最後まで続けますのでこれからもよろしくお願いします! (2019年9月8日 14時) (レス) id: 1513927827 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あああああ | 作成日時:2019年4月21日 20時