187センチVS150センチ【黒尾鉄朗】

初夏 ページ9

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いよいよ本格的な夏に突入した。制服は移行期間を終えてみんな夏服になっているしやかましい蝉も元気に鳴いている。何より部員の子達が体育館に入る時発する第一声が「あっちぃ〜」なんだ。みんなして。クーラーは16度の最低温度だし、大型扇風機も普通の扇風機も付けてるのに。


「おいそこのツッコミは『パンケーキかよ！』だろ？」

「あぁ、そうだったなぁ黒尾。お前はパンケーキだもんなぁ」


いよいよ暑さで2人の頭がおかしくなっている。まだ7月だよ、そんなんで8月どうするの。なんて意味も込めて団扇で2人を仰ぐ。


「ありがとなぁA…ほんとにお前には世話になってるわ…これからも頼むよ……」

「ハイハイこちらこそ〜」

「やば、Aなんかが天使に見えてきた」


そろそろ腕が痛いけど、2人のためにも頑張って団扇を仰ぐ。するとわたしの下僕___じゃなくて、猛虎が「乃華さん変わります！」そう言って団扇をかっさらっていった。


「うわ、なんか猛虎来た瞬間暑くなってきた」

「あっちぃなぁ〜〜」

「なんなんすか2人とも…」

「やっぱ女子って女神なんだなぁ…そうだよなぁ黒尾…」

「そうだなぁ…Aは例外だけどなぁ……」


ああ、もうダメだ。毎年夏になるとこうなんだ。1年の時はびっくりしたな。洗濯干し終わって体育館に戻ったら部員全員体育館に倒れてるんだもん。ほんとに私のドリンクが不味すぎて病的に倒れたのかと。


「あつ…」


けど、夏は外よりも体育館よりもどこよりも、ここが1番暑いと思っている。そう、蛇口だったり、洗濯機だったりがあるこの準備室。体育館と繋がっている扉は閉めないといけないから風なんて1ミリも来ないし、逆に外と繋がっている扉は開けないといけないからただただ外の熱が入ってくるだけ。扇風機があるのが唯一の救いだけど、如何せん古いものだから首振り機能もなければ風も弱いしで、本当に辛いんだ。もう、この世の何よりも。

みんなの分のスポドリを作り終えてもうそろ休憩の時間なので子供一人分くらい重い大量のスクイズを持って体育館への扉を開けると、それはそれはもう涼しい風が入ってきた。この瞬間が一番幸せ。


「あー生き返るー！」

「やっぱAさんのスポドリが1番ですわ…」


こんな辛い夏でも、みんなの笑顔を見てたら全然苦じゃないしむしろ楽しい。コートで輝く選手にはなれなくても、みんながコートで輝けるように裏でサポートするのが楽しいんだ。ここはきっとわたしの天職。


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