雨が終わる。 ページ10
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「あれ?Aちゃん、お風呂入らないの?」
まるでそこにいるのが当たり前かのように、いつもと変わらない可愛らしい顔で扉の隙間にいる私に問いかけた。
「何して、私入っていいなんか…なんで、」
理解が追いつかず、まとまりのない疑問をぶつけるしか無かった。
人の部屋に、しかも異性の部屋に勝手に入るなんて山本さんほどの常識人でなくとも分かるはずだ。なのにこの人は一体何を思って私の部屋に立ち入り、こんなことをしているのか。
山本さんの手には机の上に置いておいた家族写真が握りしめられていた。
「この服が本当に弟さんのかどうか確認したくなって。ちゃんと弟さんいるんだね。」
ゾッとした。
本能なのか、思わずその場から一歩下がった。
「ち、近付かないでっ!!」
「なんで?」
気を悪くしたのか、山本さんは暗い部屋から照明のついた廊下へと写真を放り捨てながら私に近付いた。
左肩を壁にぶつけながら、震える足を動かして距離を取ろうとするも、形のいい目と目が合ってもうそこから動けなくなった。
少しだけ日に焼けた腕が私の手を力強く掴んだ。
私が彼を苦手な理由。明確な理由が今ここでわかったかもしれない。
「この手、振り解けるの?」
私とそう変わらない背丈なのに、女の子みたいな顔の作りをしているのに、周りから可愛いと評されることも少なくないはずなのに。
私より大きい手が、角張ったその指が、その表情が私達の違いを見せて怖くなるからだ。
時折見せる男の表情に心の奥底で恐怖心を抱いていた。いつも笑顔なのに、ふとした瞬間私に向けて射抜くような目線を投げかける。
あまり力を入れてなさそうなのに、離して下さいとその手を解こうとするもびくともしない。
「ほら、僕だからって舐めてたでしょ?何かされても勝てるって思って家に上げたんでしょ?」
その先の言葉を聞きたくなくて涙をボロボロとこぼしながら私の手を掴んでいる山本さんの腕を必死に引き剥がそうとする
「なんで泣いてるの?悪いのはAちゃんだよね。」
急にぐっと引き寄せられ腰に手が回る。顔がまた近づき更に涙が流れる。
「俺は"男"だよ。」
尖った八重歯がこちらを覗いて近づいた。
玄関ドアの向こう側で、空気を引き裂いて怒りを体現するかのような雷鳴が轟いた。
「ちゃんと、意識して」
Fin.
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作者名:徳子 | 作成日時:2024年1月6日 4時