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雨が怖くて、 ページ9

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「……ん……ちゃん、おーい、Aちゃん」

山本さんの声がする、そう思ったと同時に私は慌てて飛び起きた。私に目線を合わせるためか、ソファーとテーブルの間に座って私の顔を覗き込んでいた山本さんとの距離は存外近かった。

「あ、起きた」

「ごめんなさ、私寝ちゃって」

髪を乱雑にかきあげたその姿はいつも違っていて、気付かれないようにそっと距離を取った。

「ごめんね遅くなっちゃった。僕帰る準備するから、Aちゃんはお風呂入って体あっためて!」

前髪がパサリとおでこを隠して、いつもより砕けた口調の山本さんに安心した。
やっぱり山本さんはどこまで行っても山本さんだ。ソファーの上にいる私を上目遣いして可愛い成人男性なんか山本さん以外いないはず。

立ち上がって早く風呂場に向かおうとリビングのドアを開けようとした。

「あ、ねぇねぇ」

振り返ると私と一緒に立ち上がった山本さんが貸し出した服の裾を掴んで言った。

「これって誰の?」

たったそれだけのことだ。純粋な疑問に違いない。はずなのに、私は何故か猛烈に責め立てられている気がした。

「…あ、弟のなんです。たまに家に泊まりにくるので、下着もしっかり新品です」

早く口を動かそうとした結果、意味のわからない返答をしてしまった。山本さんもそうなんだ!と曖昧な笑みを浮かべてごめんね引き止めて、と軽く手を振った。

あぁ、山本さんと早く距離を取りたい。

そう思った瞬間、私はやはり山本さんが苦手なのだと再認識した。理由は分からなかった。あんないい人を苦手とする自分に少し落ち込みながら脱衣場で服に手をかけた。

「あ、タクシー呼ばなきゃ…でも、いや住所…ん〜」

早くお風呂に入りたいのに…と悩みつつも山本さんを見送ってからの方がいいだろうと思い直して脱ぎかけていたブラウスのボタンを閉め直した。

リビングに戻ると既に山本さんの姿はなかった。

もう帰ったのかとスマホを手に取り通知を確認していると、暗い廊下の奥で私の部屋の扉の隙間から明かりが漏れていることに気付いた。

(あれ、私電気つけたままだったけ…?)

肌が粟立つのを感じながら、音を立ててずに廊下を歩いて扉を指先で押した。

「………っ!!」

口の中で出かけた悲鳴を咄嗟に手で抑えようとして、持っていたスマホがするりと手をぬけて床に落ちた。

ずっと感じてた気持ちの正体が不安や恐怖だと知るには遅かった。

「や、まもとさ、」

黒い影がゆらりと蠢いた。

雨が終わる。→←雨は止まなくて、



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作者名:徳子 | 作成日時:2024年1月6日 4時

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